役立ち情報

3.進歩する「乳房再建手術」の最前線

身体に傷を残さない脂肪注入による乳房再建の併用で
脂肪の生着率が向上

乳房再建の補助的存在だった「脂肪注入」に脚光

「乳房再建手術」にはさまざまな方法があり、「自家組織(自分の身体の組織)」を移植する方法と、「人工物(主にシリコンインプラント)」を挿入する方法の2つに分けられます。

「自家組織」による再建手術は、身体のどのような組織を採取し移植するかによって、さらにいろいろな術式に分類することができます。

この「自家組織」を用いる方法のなかに、「脂肪移植」というものがあります。患者さんの腹部や臀部、太ももなどから吸引した脂肪組織を遠心分離機にかけて精製し、再建したい部分に注入して生着させる方法です。
ただこれまでは、①乳房再建手術の後、胸もと(デコルテ)に生じがちな凹凸をなめらかに整える、②乳がんの温存手術による乳房の欠損部分を埋める(欠損部分が比較的小さい場合)など、どちらかといえば再建手術の補助的な位置づけとして用いられてきました。

しかしいま、この「脂肪移植」が乳房再建の最先端技術として大きな注目を集めはじめています。

急速に進歩する脂肪注入による乳房再建

自分の脂肪を注射器で注入するだけで乳房を再建することができたら――。それは乳房再建を希望する患者さんの究極の夢ともいえるものでした。

しかし注入した脂肪が移植先でしっかりと生着するためには、脂肪組織が周囲の組織から血管をもらい、酸素や栄養が十分に行き渡る環境が整っている必要があり、個人差はありますが、注入した脂肪の生着率はこれまで20~30%程度にとどまっていました。過去には、大量の脂肪をただ単純に注入すると、脂肪組織がまるく固まってしまう問題点(オイルシスト)や石灰化などの合併が報告されており、脂肪組織をいかに安全かつ高率に生着させるかは形成外科の世界でも長年の大きな課題でした。

でも近年、脂肪注入による乳房再建をとりまく状況は急速に変わりつつあります。
ひとつは、脂肪移植技術の革新です。アメリカのシドニー・コールマンという医師が、脂肪細胞を層状に非常に細かく注入する方法を開発。移植先に均等にまんべんなく脂肪を注入していくことで、脂肪組織は周囲の組織から血管をもらいやすくなり、生着率が大幅に向上しました。

「ブラバ」の併用で脂肪組織の生着率が大きく向上

もうひとつは、脂肪組織の生着率をさらに高める機器の登場です。
同じくアメリカのロジャー・クーリという医師が、ブラバ(BRAVA)という体外装着型の乳房拡張器を豊胸術に使用した場合、脂肪の生着率を80%程度にまで高められることを報告。その後の脂肪注入による乳房再建の普及に大きな可能性をひらきました。

写真提供:BRAVA LLC

写真提供:BRAVA LLC

ブラバはもともと豊胸用に開発されたもので、乳房にプラスチック製のドームをかぶせて15~30mmHgという弱い陰圧をかけて吸引し、組織を立体的に膨張させる装置です。膨張した組織は浮腫(むくみ)を起こした状態になりますが、その部分には新しい血管が増えて血流がよくなるため、より多くの酸素や栄養分が運ばれ、老廃物がスムーズに排出されるなど生着のための環境が大幅に改善。また陰圧のかかった組織が拡張することで、一度により多くの脂肪を注入することができるようにもなりました。

ブラバは豊胸目的で使用する場合、1日10時間、約10週間の装着することで効果が認められます。乳房再建術の場合は、脂肪注入の術前・術後に4週間ずつ装着することを、半年以上の間隔をおいて2~4回程度(乳房の大きさによる)繰り返し、皮膚と大胸筋を徐々に拡張していきます。普及までにはまだまだ多くの課題がありますが、この方法には従来の乳房再建の概念を大きく変えていく可能性があるといっても過言ではありません。

現在は、脂肪幹細胞を混ぜてさらに生着率の向上を図る研究も進められており、今後は再生医療と組み合わせた乳房再建が確立していくことも大いに考えられます。

多施設の共同研究で安全性と有効性を示すことと、
日本人に合った機器の使用法を確立することが普及への第一歩に

横浜市立大学附属市民総合医療センター 形成外科 佐武利彦医師

 

佐武利彦医師

脂肪注入が変えるこれからの乳房再建

脂肪注入による乳房再建は、乳がんの温存手術後の修正にはたいへん有効な方法ですが、全摘後の再建に用いることについては、その安全性・有効性の面から、私自身あまり積極的に臨んではきませんでした。しかしアメリカのロジャー・クーリ医師によるブラバを併用した症例を目の当たりにしたとき、脂肪注入という技術によって、これから乳房再建手術は大きく変わるという確信を深めました。

その独特の形状に注目がいくせいか、ブラバを乳房再建用の機器と思っている方が少なくありませんが、これはあくまでも脂肪の生着を促進するためのデバイスです。作物にたとえれば、まいた種が育つのに十分な栄養が行き渡るように、畑の土壌や水はけを改善することがブラバの役割だといえばわかりやすいでしょう。

一方、脂肪注入は乳がんの再発リスクを増加させることはなく、合併症の発生率も高くはありません。また乳房内の血流がよくなることで乳がん手術後の慢性的な疼痛の緩和や、皮膚表面の若々しさが保持される効果なども報告されており、脂肪注入による乳房再建はこれから形成外科分野での大きなトピックになっていくものと思います。

普及までにはまだまだ多くの課題が

ただブラバには、①夜間の装着が原則、②肌かぶれ(接触性皮膚炎)やムレが生じやすい、③機器が高価で保険が使えないなど、多くの課題があります。しかも脂肪注入による乳房再建は、国内でもまだ限られた施設でしか行われておらず、希望すれば誰でも手術を受けられるようになるまでには、まだまだ多くの段階を経る必要があります。

そのためには、まず多施設共同研究のような形で、複数のコア施設で同じ手順による治療を重ね、その安全性と有効性を示していくこと。その次に、脂肪注入による乳房再建手術が厚労省から先進医療として承認されること。さらにその先の段階として、シリコンインプラントによる再建手術がそうであったように、ブラバを併用する再建が保険適用の対象となるよう広く働きかけていく必要があります。

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