• 公開日2018.08.08
  • 最終更新日 2023.05.16

乳房再建医の声

乳房再建も再生医療の時代へ。脂肪注入による再建を進めていきます

草野 太郎(くさの たろう) くさのたろうクリニック 院長
昭和大学形成外科 兼任講師

術式:
 ・自家組織(脂肪注入、穿通枝皮弁、広背筋皮弁)
・インプラント
標準手術時間(二次再建)
・広背筋皮弁 4~5時間、穿通枝皮弁 8~10時間
・エキスパンダー挿入 1時間、インプラント入れ替え 1時間
※局所麻酔によるインプラント入れ替えにも対応
標準入院日数:(入院は昭和大学江東豊洲病院となります)
・自家組織 10日~2週間
・エキスパンダー挿入 1週間~10日、インプラント入れ替え 4~5日
乳頭・乳輪再建の時期:
・乳房再建手術の3カ月後が目安(手術は日帰り)
・術式:乳頭は健側からの移植、皮弁の立ち上げ。乳輪は健側や鼠径部等からの植皮、
タトゥーもしくは乳頭・乳輪ともタトゥー
※タトゥーは乳頭再建術後2ヵ月以降が目安
注)脂肪注入以外の「自家組織」による再建は、昭和大学江東豊洲病院で行っています

 

脂肪注入による再建を乳房再建のメイン術式として進めていきます

子どものころから手先が器用で、図工や美術、音楽の授業が得意。医師でなければ服飾デザイナーになりたいと思っていたくらいでしたので、医学部に進んでからもクリエイティビティの高い形成外科医を当然のようにめざしました。昭和大学病院の形成外科医局に18年所属し、2013年から同病院のブレストセンターで主に乳房再建手術を担当した後、乳房再建手術を自分なりに追求していくため、2019年6月に独立してクリニックを開設しました。

新しいクリニックでは、私自身の人的ネットワークの活用も含め、「自家組織」「インプラント」「脂肪注入」などあらゆる選択肢を提供できることをいちばん大きな特色としています。そのなかで特に当院では、「脂肪注入」による再建を軸にしていきたいと考えています。

脂肪注入に用いる脂肪の生成にはいくつか方法があり、当院では次の3つの方法を採用しています。①吸引した脂肪を遠心分離機などで生成する“純脂肪”、②純脂肪にさらに高い負荷をかけて遠心分離し、より純度を高めた“コンデンスリッチ脂肪”、さらに当クリニックでは③少量の採取脂肪から脂肪由来幹細胞(※)を取り出して培養する、“培養脂肪由来幹細胞”も取り扱っていきます。これを行うにあたっては「再生医療等安全性確保法」の規制対象となりますが、当院は2020年2月に厚生労働省の認定を取得しています。

脂肪由来幹細胞=幹細胞とは自分自身を複製したり他の細胞に分化したりする能力にすぐれた細胞のことで、脂肪組織から取り出した幹細胞を脂肪由来幹細胞といいます。脂肪注入を行う際、注入する脂肪に脂肪由来幹細胞が多く含まれているほど生着率は高くなります。また脂肪由来幹細胞は組織を修復する能力も持ち合わせていますので、手術や放射線でダメージを受けた組織の状態を改善することも期待できます。

脂肪幹細胞による“再生医療”はこれからの形成外科治療の主流に

脂肪注入による乳房再建には、患者さんの自家組織を用いるものであることに加え、低侵襲すなわち身体に大きな傷が残らないという優れた利点があります。ただし、ただし、乳房を作り上げるために必要な脂肪が採取可能であること、乳がん術後に十分な皮下脂肪や大胸筋などの皮下組織が残されていることなど、いくつかの条件があり、患者さんによっては適応とならない場合があります。乳がん手術で皮下脂肪の多くが取り去られていたり、放射線治療で皮膚が薄く固くなっていたりする場合は、皮膚を伸ばしにくいため脂肪注入による乳房再建は難しくなります。

一方で脂肪注入にはさまざまな使い方があり、皮下組織に充分な厚みがない場合は、脂肪注入で皮下組織を厚くしたところへ、インプラントを入れるという方法をとることもできます。放射線治療を受けている場合も、幹細胞の持つ再生能力によって皮膚・皮下組織のダメージが改善される可能性がありますので、インプラントや皮弁との併用による再建が今後広がっていくことは大いに考えられます。乳房再建術の可能性を広げていくという意味において、脂肪注入はこれからの重要なオプションとなっていくものと思います。

形成外科では今後、失われた組織や器官の修復を行ううえで幹細胞を用いた“再生医療”が主流となっていのは間違いなく、乳房再建手術のあり方も脂肪幹細胞の活用によって大きく変わっていくものと思います。一方で、新しい方法であるため多くの点で環境の整備が必要です。保険適用もそうですが、術式に関する基準づくりや医療者側の資格認定制度など、患者さんたちに安全で質の高い手術を提供していくための環境整備を進めていくことが医療側の大きな課題です。

再建後の胸の性状に合わせたブラジャーを開発しました

ところで、服飾デザイナーへの道も考えたとお話ししましたが、実は3年ほどの開発期間をかけてシリコンインプラントで再建した胸に合うブラジャーをシ考案しました。患者さんたちの多くは、再建手術後の下着のことで悩んでおられ、医療者として何らかの提案ができないだろうかと考えた末に商品化したものです。

乳房を形づくるカーブは通常、内側が急峻で外側はゆるい曲線を描いています。これに対し市販のブラジャーは、外側を急カーブのラインにすることで胸を寄せて上げる効果を得ています。ところがインプラントは左右対称形で、しかも硬くて自在に形を変えることができないため、市販のブラジャーではどうしてもフィットしにくいのです。私が考案したのは、寄せて上げるのではなく“胸に沿わせるブラ”。再建側には術後の胸に負担をかけない緩やかなラインのカップを、健側にはノーマルなラインのカップをそれぞれ組み合わせて使えるようにしてあります。自家組織で再建した人でも、手術後にしばらく胸を安静に保ちたい方たちに広く使っていただくことができます。

乳房再建手術には、女性にとって大切な乳房の見た目を改善することで、患者さんたちのメンタル面を改善していくという大きな役割があります。その意義を日々かみしめながら、今後も研鑽に励んでいきたいと思っています。(取材:2018年7月23日、追加取材:2019年9月20日)

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名称 くさのたろうクリニック
所在地 〒141-0021 品川区上大崎3-2-9 アクア目黒 4F
診察時間 9:00~18:00 ※広背筋皮弁、穿通枝皮弁での手術は昭和大学江東豊洲病院で行う。
休診日 水曜・土曜午後、日曜 ※2019年9月現在の情報です。受診される際は病院にご確認ください。
TEL 03-5422-7081
URL https://kusano-taro.com/

このサイトは、医療に関するコンテンツを掲載しています。乳がんや乳房再建手術に関する各種情報や患者さん・医療関係者の談話なども含まれていますが、その内容がすべての方にあてはまるというわけではありません。 治療や手術の方針・方法などについては、主治医と十分に相談をしてください。

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