術式決定のプロセスでは、患者さんがイメージしやすい言葉を選び、時間をかけて説明します
宮下宏紀(みやしたひろき)
がん研有明病院 形成外科 副医長
術式:
・自家組織(穿通枝皮弁 ドナーは腹部・大腿部、症例によって広背筋皮弁、皮下動脈皮弁も適応)
・インプラント
・脂肪注入(乳房再建、補完的に実施)
標準手術時間:
・自家組織 穿通枝皮弁 5~7時間
・エキスパンダー挿入 1時間
・インプラントへの入れ替え 1.5時間
標準入院日数:
・エキスパンダー(二次再建)、インプラント入れ替え 4日
・自家組織 穿通枝皮弁 1週間~10日
乳頭・乳輪再建の時期:
・再建手術の3か月後(自家組織で再建する場合は1年後を推奨)
連携病院:
・新宿西口 耳鼻いんこう科 形成外科(毎月第4金曜日)
・国立国際医療研究センター病院 形成外科(毎月第3水曜日)
できるだけキャッチーな言葉を選び、「伝わる」ことにこだわる
乳房再建には色々な術式があり、術式を決定するにあたっては、患者さんが必要とする医療情報を十分提供し、ご自身でしっかり納得していただくことがとても大切です。患者さんご自身が“術後の自分の乳房”を明確にイメージできるまで、何度でも外来でお話するようにしています。緊張している様子の患者さんであれば、「どうぞメモをとってください」と促すこともありますし、再建後の姿をイメージしやすいように、「裸になったときの乳房と、洋服を着ている時の乳房のどちらを重視しますか」という質問を投げかけたりすることもあります。患者さんの表情をよく見て、理解が薄いようであれば言葉を変えたりするなど、工夫して伝えることを惜しみません。
私は学生時代から躰道(たいどう)という武道に打ち込み、世界選手権での優勝経験もあります。近年は指導者として母校で教えていることもあり、「上手な人の動きを言語化する」ことや、「どうしたら相手に意図が正しく伝わるか」を重視してきました。躰道の指導で培ってきたノウハウを、患者さんとのコミュニケーションに活かせていることは、自分の強みだと考えています。
患者さんの前向きな声がモチベーションの源泉
形成外科医として駆け出しの頃、自分には誇れる技術がないことに思い悩んでいました。赴任先の佐久市立国保浅間総合病院(長野県)形成外科で一人医長を務めていた2009年、信頼のおける先輩医師から背中を押され、また、がん研からもサポートを受けて乳房再建を始めることに。ゼロからのスタートだったので緊張で眠れない日々もありましたが、当時の患者さんたちは「乳房再建のおかげで人生が変わりました」「本当に再建してよかった」と満面の笑顔で言ってくださり、その後も折に触れて交流が続きました。一緒に歩んできた患者さんの“生”の声…それが私のモチベーションの原点です。
乳房再建術は、患者さんの人生を変えることができる素敵な手術です。これまで乳房再建医として育ててもらった恩返しをしたい。次世代を担う、技術力のある外科医をがん研から輩出するため、後進の指導にも力を入れています。
がん研に外来で訪れる患者さんは不安を感じたり緊張されたりしていることも時に見られます。形成外科では、“砂漠のオアシス”のような、“街の中の止まり木”のような場所を提供したいと思っています。乳がんで乳房を摘出することになった患者さんに対して、ポジティブな提案ができるのが乳房再建術ですし、そのために患者さんには「もっと頑張ろう」と前向きな気持ちになってもらいたいですね。
“患者さんも術者も安眠できる手術”を提供したい
乳房再建術で大切にしているのは、基本的なことではありますが、合併症を無くすことです。合併症にも色々ありますが、例えば手術時間が長くなると麻酔薬や点滴・輸液の投与量が多くなり、患者さんの不調の原因になるなど、様々なリスクが高まります。そのため、同一内容であれば手術時間は短い方が望ましいとされており、私もかつては“早さ(手術時間の短さ)”を是としていた時期もありました。しかし最近では「手術の早さは自らの鍛錬の結果として得られるものであり、目的ではない」と考えています。安全で整容性に優れた乳房再建のためには、術中に何度も体位を変えて乳房の形を検証したり、血流をリアルタイムに評価する装置で血管吻合部の状況を見たりする時間は惜しみません。それでも、できるだけ短時間で手術を終えることができるよう、絶えず技術を磨き続ける必要があります。手術を行ったその日の夜に、患者さんはもちろんですが、術者も安眠できるのが理想ですよね(笑)。当院では、平日は毎日遊離皮弁による乳房再建術(マイクロサージャリーでの血管吻合を伴う自家組織での乳房再建術)を行っていますので、医療従事者が安心して経過観察できるということは、サステイナブルな医療の提供という観点でも重要です。
今後取り組んでいきたいこととしては“知覚の再建”です。乳房という部位の特性上、また患者さんのQOLの観点からも、再建後に触感覚を取り戻してもらいたいと、がん研全体で注力している分野です。具体的にはあばらと腹部の神経を別の血流でつなげる処置になりますが、すでに臨床段階にあります。今後も乳房再建術の到達点をどんどん上げていき、さらに多くの患者さんの人生を応援していきたいと考えています。
(2021年7月 オンライン取材)
名称 | 公益財団法人がん研究会 有明病院 | ||
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所在地 | 135-8550 東京都江東区有明3-8-31 | ||
診察時間 | 初診・再診 午前9時〜午後4時 | ||
休診日 | 土曜日・日曜日・祝祭日・年末年始(12/29-1/3) | ||
TEL | 03-3520-0111(大代表) | ||
URL | https://www.jfcr.or.jp/hospital/ |