• 公開日2017.03.02
  • 最終更新日 2023.05.16

乳房再建医の声

整容性に優れる“乳頭くり抜き乳輪温存乳房切除術”を進めています 身原弘哉医師

身原 弘哉(みはら ひろや) 広島市立広島市民病院 形成外科 部長

※一部、動画の固まる箇所がありますことをご了承ください(音声には問題ありません)

術式:
・インプラント
・自家組織(主に腹直筋皮弁)
標準手術時間:
・エキスパンダー挿入 1.5時間、インプラントへの入れ替え 2~3時間
・腹直筋皮弁 7時間
標準入院日数:
・エキスパンダー挿入 10日、インプラント入れ替え 6日
・腹直筋皮弁 2週間
乳頭・乳輪形成の時期:
・インプラント 入れ替えの3ヵ月後以降
※健側を挙上している場合は左右バランスが落ち着いてから
(目安として入れ替えから半年後以降)
・自家組織 半年ないし1年後以降

乳腺外科との密接な連携のもとで乳房再建手術を行っています

広島市立広島市民病院では、乳腺外科と形成外科の緊密な連携のもとに乳房再建手術を行っています。いうまでもなく「乳房再建手術」は、まず乳がんを切除して、がんが転移・再発する可能性を極限まで減らしたうえで行います。その点で安全性が最も高いのは乳房の全切除(全摘)ですが、乳房再建までを考慮する、すなわち整容性の観点からいえば、乳頭乳輪を温存して皮下乳腺を全摘するほうがよりきれいな結果を得ることができます。

ただし乳頭の内部には乳腺があります。乳がんは乳腺内に生じる腫瘍なので、乳頭乳輪が残せるのは乳頭内にがんが進展していない場合のみ。少しでもリスクが懸念される場合は、乳頭乳輪とも切除したうえで乳房再建を行い、一定期間をおいて乳頭乳輪形成術を行う方法が一般的です。

これに対して、当院がここ2年ほど積極的に行っているのが「乳頭くり抜き乳輪温存乳房切除術(ASM)」という術式です。文字通り、乳輪はそのまま切除せずに温存し、乳頭部分をくり抜いて皮下乳腺と一緒に切除する方法で、乳房再建に際しては乳頭だけを再建することになります。

整容性の観点からも、より自然な乳頭再建が可能に

乳頭乳輪とも温存したまま皮下乳腺を全摘する場合は、乳頭直下にがんが残るリスクを回避するために、MRIで乳頭内へのがん進展の有無を十分に調べ、乳頭乳輪の真下ぎりぎりまで乳腺を切除するなどの方法がとられます。しかしASMを用いれば、乳頭部分は切除するのでがんが残るリスクが減り、また乳輪を温存しているため、乳頭乳輪部分をより自然に再建することができます。

ASMそのものは過去に学会発表されている術式なのですが、当院の乳腺外科医との雑談のなかで「より安全に乳輪を残す方法として有効なのでは?」というアイディアが示されたのを機に、一緒に検討を進めてきたものです。乳腺外科医にとっても、乳頭部分からの乳腺剥離が行えるため手術がやりやすくなるようです。乳頭乳輪まで切除するほうが安全性においてはより勝るとはいえますが、ASMの適用が可能と判断される患者さんには、選択肢のひとつとして提示しています。

ちなみにこの術式では、センチネルリンパ節生検(※注)の際に腋下の皮膚を小さく切り取っておき、乳頭を切除した部分に丸く小さく移植しておきます。そして数ヵ月の後、この植皮部分を薄くはがし、健側の乳頭を半分に切って移植するなどの方法で乳頭を再建します。そうすることで乳輪の形が歪むのを防ぐことができ、かつ再建する乳頭の土台となる部分が確保されているので、乳頭が陥没せずきれいに立ち上がるという利点があります。

保険適用対象インプラントのラインナップがもっと増えれば…

手術の説明が長くなりましたが、このように当院の乳腺外科は乳房再建にたいへん理解があり、患者さんへの対応もスムーズに引き継がれています。もちろん再建をするかどうか、どんな術式にするかは患者さんの意思や希望で決めることなので、医療者側からは正確な情報を整理して提供することが第一であるのはいうまでもありません。

ただ外科手術全般に共通することとはいえ、再建手術後の痛みやつっぱりがいつまでも辛いと訴える方もおられれば、きれいな乳房が得られたのだからまったく気にならないという方もいらっしゃいます。リスクはあってもそれに見合うだけの価値があると考える方にとって、乳房再建手術にはたいへん大きな意義があると思います。そのためにも患者さんとは十分に話し合い、医師の価値観で誘導しないこと。そしてひとたび手術室に入ったら、時間をかけてもやれることをやり尽くし、患者さんの心と体に残る苦痛を少しでも減らす努力をすること。これらは常に自分の肝に銘じていることです。

それから、ひとつ希望を言いますと、幅が広くて膨らみが薄めの乳房に適したインプラントが保険摘要対象になってくれるとたいへん嬉しいですね。そうなれば、インプラントできれいに再建できる患者さんはもっと増えるでしょう。検討が進むことを切に願っています。
(取材・2017年2月)

※注【センチネルリンパ節生検】 乳がん手術前に、乳房内の乳がん細胞が最初に到達する脇の下のリンパ節を発見・摘出し、転移の有無を調べること。ここに転移がなければ、それ以上のリンパ節の摘出は必要ないと判断される。

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名称 広島市立広島市民病院
所在地 〒730-8518 広島市中区基町7番33号
診察時間 月、火、木曜日(要予約)初診受付8:30~11:00 ※2017年2月現在の情報です。受診される際は病院にご確認ください。 
休診日 土、日曜、日、8月6日、12月29日~1月3日
TEL 082-221-2291(代表)
URL http://www.city-hosp.naka.hiroshima.jp/

このサイトは、医療に関するコンテンツを掲載しています。乳がんや乳房再建手術に関する各種情報や患者さん・医療関係者の談話なども含まれていますが、その内容がすべての方にあてはまるというわけではありません。 治療や手術の方針・方法などについては、主治医と十分に相談をしてください。

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