• 公開日2016.10.31
  • 最終更新日 2022.06.24

4.乳頭・乳輪の再建手術~いろいろな術式と留意点

移植や局所皮弁など方法はさまざま
再建した乳房のふくらみが落ち着いてから手術を行います

1.乳頭・乳輪の再建方法にはいろいろな種類があります

乳がん手術で乳頭・乳輪を切除している場合、乳房再建の最終仕上げとして乳頭・乳輪の再建を行います。手術は比較的短時間で終わり、多くの施設では日帰りで行うことができます。

乳頭および乳輪の再建は、主に次のような方法によって形成します。

《乳頭》「移植」 または 「局所皮弁+タトゥー」
・移植
健側の乳頭を半分に切って移植する方法(乳頭の大きさなどによって、縦方向、水平方向など切り方は異なります)。健側の乳頭が大きい人に適しており、患者さんの乳頭の本来の色や質感がそのまま保たれます。

・局所皮弁+タトゥーまたは皮膚移植(植皮)
乳頭を作る部分の皮膚を星型などに切って立ち上げ、立ち上げた皮膚(皮弁)をまるめて縫い合わせ乳頭を作る方法(スターフラップ、スケートフラップなどさまざまな名称の術式があります)。健側の乳頭が小さい人、両側乳がんの人などに向いた術式です。
時間が経つと乳頭の高さが失われやすいため、立ち上げた皮膚の中心に軟骨や医療用の人工骨などを入れて、高さを保つ方法を併用することもあります。
色は乳頭形成の前もしくは後に、健側乳頭に近い色をタトゥーで着色するか、同時に植皮をするかのいずれかです。

《乳輪》「皮膚移植(植皮)」 または 「タトゥー」
・皮膚移植
乳輪独特の色や質感を出すため、乳輪を作りたい部分に次のいずれかを植皮することが一般的です。
①健側の乳輪
②鼠径部の皮膚
①は健側の乳輪が大きい人、②は健側の乳輪が小さい人に向いています。

・タトゥー
皮膚移植を希望しない人には、乳輪部分にタトゥーによる着色を行います。

2.ご自分に適した術式を選びましょう

乳頭・乳輪の再建は、患者さんの希望や乳頭・乳輪の状態などを勘案したうえで、上記の方法を組み合わせて行います。
組み合わせは、おおまかに次の5種類に分けることができます(画像提供:東京医科大学形成外科 小宮 貴子医師)。

1.乳頭(健側からの移植)+乳輪(健側からの移植)

2.乳頭(健側からの移植)+乳輪(鼠径部からの皮膚移植)

3.乳頭(健側からの移植)+乳輪(タトゥー)

4.乳頭(局所皮弁+タトゥー)+乳輪(タトゥー)


※局所皮弁で乳頭を作る際は、乳頭の色もタトゥーで着色します。

5.乳頭(局所皮弁+鼠径部からの皮膚移植)+乳輪(鼠径部からの皮膚移植)

どの術式がよいかは患者さんの乳頭・乳輪の状態によって適応が異なり、術式ごとに長所・短所がありますので、主治医と十分相談してもっとも適応する術式を選択することになります。
※これらの分類は医療施設や医師によって異なることがあります。

なお健康な乳房にメスを入れたくない場合や、すぐに乳頭・乳輪を再建する必要を感じない方の場合などは、手術はせずに乳頭・乳輪ともタトゥーで立体的にみせる方法もあります(画像参照)。温泉やスポーツジムなど、人前で胸を見せる機会以外は必要ないという人には、簡単に装着できる人工のニップルも販売されています。

3.乳頭・乳輪の再建手術の前に知っておきたいこと

手術のタイミングと術式選び

乳頭・乳輪の再建は、通常、乳房のふくらみをつくったあと、乳房の状態が落ち着くのを待ってから行います。半年程度の期間をおくことが一般的ですが、自家組織による乳房再建では、インプラントによる再建より乳房全体の腫れが落ち着くまでの時間がかかるため、1年ほど間をあけることもあります。

ちなみに乳頭や乳輪をタトゥーで着色する場合、個人差はありますが、タトゥーに用いるインクの成分の関係で、半年ほどで色が薄くなってくることがあります。乳輪・乳頭の色が濃い方の場合は退色が目立ちやすいので、気になるときは必要に応じて色を足すことができます。なお、医療用のタトゥーで染色した場合に限り、タトゥーの成分がMRI検査に影響することはありません(医療用以外のタトゥーはMRI禁忌です)

手術によるリスクが考えられるケース

次のような方が乳頭・乳輪の再建手術を希望する場合は、一定のリスクを考慮する必要がありますが、主治医と十分に相談し、適切な術式やタイミングを選ぶことで安全に再建を行うことができます。

・乳頭部分に放射線照射を受けている場合
放射線を照射した皮膚は、汗を出す汗腺や、脂を出す皮脂腺がこわれてうるおいが保持できず、乾燥しやすくなります。毛細血管が破壊されて血行も悪くなっているため、手術の傷がふさがりにくく、悪くすると移植部分が壊死することもあります。乳房再建全体にいえることですが、放射線照射を受けた方の再建については、照射後半年~1年ほどの期間を置き、その間は保湿性の高いクリームを毎日しっかり塗り込みながらマッサージすることで、やがて皮膚の柔らかさや血行が回復し、再建手術を受けられるようになります。

・将来授乳の可能性がある場合
乳頭には母乳を分泌する重要な機能があるので、将来的に授乳する可能性のある方は、健側乳頭を移植する方法はとらず、局所皮弁で再建するか、乳頭・乳輪ともタトゥーにする、または人工のニップルを使うといった方法が勧められます(本ページ末尾に小宮医師の詳しい解説を掲載していますのでご参照ください)。

費用

乳頭の移植、局所皮弁、および乳輪への皮膚移植は、いずれも健康保険の適用対象となります。診療報酬点数表に基づく金額の目安は次の通りで、どの医療機関で手術を受けても金額は同じです。
・乳頭移植、局所皮弁 = 「再建乳房乳頭形成術」  7万3500円
・乳輪への皮膚移植 = 「全層植皮術」 25平方cm未満  10万円
したがって乳頭・乳輪とも再建すると、3割負担で5万2000円程度となります(高額医療費の計算の対象にもなります)。

これに対し、タトゥーは保険診療の対象外で自由診療(全額自己負担)となるため、医療機関によって費用は異なります(目安として5万円から20万円程度)。

乳房再建医からのコメント

将来、授乳の可能性がある場合の乳頭・乳輪は“ステップアップ”の考え方で再建することもできます

小宮 貴子(こみや たかこ)先生

東京医科大学 形成外科 講師

将来的に妊娠・出産を考えている方が乳頭・乳輪の再建を行う場合は、授乳の問題を考えあわせながら術式を選択していくことが大切です。

局所皮弁での再建やタトゥーのみという方法であれば問題はないのですが、健側乳頭の移植による再建の場合は、乳頭内部の乳管の一部も切り取ることになります。その際は、残した乳頭の乳管や神経を焼き切らない方法で乳頭を切り取りますので、感覚のみならず乳管の機能が残り、乳頭が大きめの場合は比較的問題なく授乳を行えます。

しかし乳頭のサイズが小さい、または中くらいの方の場合は、母乳が出たとしても乳頭が小さくなることで赤ちゃんがうまく吸い付くことができず、授乳が円滑に行えなくなる懸念があります。私自身の経験からも、ミルクがしっかり飲めないと赤ちゃんにもお母さんにも大きなストレス要因となってしまいます。

したがって、いずれ授乳をする可能性のある方については、乳頭が大きい場合以外は、局所皮弁で乳頭を再建するか、あるいは授乳というライフイベントが終わる5年後、10年後といったゴールを定め、それまではタトゥーで乳頭・乳輪をつくっておき、ゴールの後に最終再建をセッティングすることもできます。その方の人生設計に合わせて、乳頭・乳輪の再建もステップアップの考え方で臨まれればよいのではないかと思います。(取材:2018年2月17日)

このサイトは、医療に関するコンテンツを掲載しています。乳がんや乳房再建手術に関する各種情報や患者さん・医療関係者の談話なども含まれていますが、その内容がすべての方にあてはまるというわけではありません。 治療や手術の方針・方法などについては、主治医と十分に相談をしてください。

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