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9.乳がん手術後のリンパ腫 ~早期診断のススメと症状別の治療法

腕に違和感を感じたら
早めに診断を受けることがなによりも大切です

発症予備軍も多い、上肢リンパ浮腫

身体に張り巡らされたリンパ管は、血管(静脈)で回収しきれない脂肪、たんぱく質、細菌や病原体などを回収し、そのフィルタの役割を果たすのがリンパ節です。乳がん手術の際には転移を予防する観点から腋窩リンパ節を切除することも多く、これによりリンパ液の流れが停滞してしまうことで腕にむくみが生じる状態を「上肢リンパ浮腫」と言います。

上肢リンパ浮腫を発症する要因は大きく3つに分類されます。一番多いのは腋窩リンパ節を切除する「リンパ節郭清」ですが、他にも乳房への「放射線治療」によって周辺組織である腋窩リンパ節の機能が低下することや、タキサン系の抗がん剤を投与する「化学療法」、さらにはセンチネルリンパ節廓清だけでも発症につながる可能性があることもわかっています。また、これらを組み合わせた複数の要因で発症することも多く、結果として乳がん患者さん全体の3割ほどが上肢リンパ浮腫を発症するとも言われていますが、予備軍も含めると潜在的にはもっと多くの患者さんがいる可能性もあります。上肢リンパ浮腫に対する理解を深めることは、乳がん手術後のQuality of Life(QOL: 生活の質)向上という観点から大変重要です。

早めの自覚と専門の医師による診察が大切

腋窩リンパ節の郭清あるいは機能低下によって引き起こされる上肢リンパ浮腫では、その初期段階として手の指先や腕から上ってくるリンパ液が行き場を失い、上腕部分でリンパ液が漏れ出します。次第にリンパ管の中でリンパ液が逆流するようになり、リンパ管に“つまり”が生じます。リンパ浮腫の原因になるこの“つまり”は、時間の経過とともに上腕から少しずつ前腕へと移動するので、前腕に明らかなむくみを認識した時にはすでに上肢リンパ浮腫がだいぶ進行していることが多く、速やかに外科手術に踏み切らなければならないケースも散見されます。また、前腕や手から急にむくみが出てくるケースもあるので、注意が必要です。

リンパ浮腫の治療は早めが肝心です。初期症状としては、主に上腕の重たさ、だるさ、痺れ、肩の上がりにくさなどがあります。また、朝起きて指先がこわばっていたり、手の握りにくさを感じたりと、上腕以外に症状が見られる場合もあります。これらは、更年期特有の症状との判別がしづらいために治療が遅れたり、乳がん手術の際に神経や筋肉が損傷したことによって出現する違和感と診断されることもあります。また、脂肪がつきにくいやせ型体質の人は、むくみが見られなくても重症化していることがあるので、見た目だけでリンパ浮腫を判断すると、適切な治療のタイミングを逃してしまうことになります。

乳がんの治療後に腕が重い、だるい、痛いなどの違和感を感じたら、すぐに専門の医師による診察を検討してください。

重症度に応じた一般的な治療方針

一般的に軽症であればリンパドレナージや圧迫療法などの保存療法、中等度では保存療法に加えて侵襲度の低いリンパ管静脈吻合術が検討され、重症になるとさらに侵襲度の高いリンパ節・リンパ管移植が選択されますが、リンパ浮腫のメインとなる治療法はあくまで保存療法です。また、むくみの正体は漏れ出したリンパ液だけでなく新たに蓄積してしまう脂肪でもあるため、中等症以上で除去を強く希望する場合には、脂肪吸引も検討されます。しかし脂肪吸引はリンパ管そのものに働きかける訳ではなく、対処療法的な性質を持ち、術後の脂肪塞栓・血栓、軽度の神経障害などのリスクも伴うため、十分な説明と患者さん自身の納得が必要です。

リンパ浮腫の悪化を防ぐために・・・日々の生活で心掛けたいこと

乳がん手術経験者が上肢リンパ浮腫を発症するタイミングは幅広く、手術後数ヶ月で発症する人もいれば、20年以上経過してから発症することもあります。手術後時間が経って「もう大丈夫」と思い込み、家庭菜園に精を出したり、重い荷物を持ったり、運動不足解消のために腕に負荷がかかる運動を頑張りすぎることで発症することもありますので、腕の使いすぎには注意が必要です。

また、リンパ浮腫の悪化を防ぐために重要なのは日頃のスキンケアです。リンパ浮腫のむくみが進行すると、皮膚のバリア機能や調節機能が低下し、外的刺激による炎症あるいは感染が起こりやすくなります。大切なのは「清潔さ」と「保湿」。そのためには、肌の成分に近い中性〜弱酸性の石鹸やボディーソープをよく泡立てて肌の表面を優しく洗い、入浴後は、ローションやジェル、クリームなどで保湿すると良いでしょう。

手指を傷つけたり、虫に刺されたりすることで上肢リンパ浮腫に罹患すると誤解されることもあるようですが、これらが直接浮腫を引き起こすことはあまり多くありません。ただし、上記の通り、浮腫が起きている部位の皮膚は刺激に弱いため、細菌が混入することで感染症を発症し、結果的に浮腫を悪化させる可能性はありますので、その点は注意が必要です。

進化する画像診断
-リンパ管の状況や腕の中で「いま起きていること」を正しく把握し「これから起こること」を予測

亀田総合病院/亀田京橋クリニック
リンパ浮腫センター センター長  林 明辰(はやし あきたつ)

従来リンパ浮腫は、外見や超音波による診断が広く行われてきました。従来の超音波検査では“つまり”が生じているリンパ管そのものを把握することはできませんが、むくみの正体であるリンパ液の貯留や蓄積した脂肪の状態を見て重症度を推測し、治療方針を検討することは可能です。

近年の画像診断技術の進化とともに、現在は放射性同位元素を用いるリンパ管シンチグラフィーや造影剤を用いるICG(インドシアニングリーン)リンパ管造影法、さらには最新の超高周波超音波などにより、リンパ管そのものの状態やリンパ液の漏出部位を鮮明に映し出すことができるようになってきました。これにより、個々の症例を正確に把握し、軽症〜中等度〜重症のステージに応じた治療方針を、根拠を持って患者さんに示すことができ、結果として、より効果的で最適な治療を提供できるようになり始めています。

リンパ浮腫を専門科として設置している医療機関は全国的に見てもまだ少なく、形成外科の一部として診療されることが多いのですが、「外科=手術」というイメージが先行してしまい、残念ながら患者さんから敬遠されることも少なくありません。亀田総合病院/亀田京橋クリニック リンパ浮腫センターではオンラインでの診療も受け付けていますので、近くに適切な医療機関が見つからない場合はご活用ください。

(2020年9月7日 オンライン取材 )

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