• 公開日2012.12.17
  • 最終更新日 2022.06.24

医師がお答えします「乳房再建手術」Q&A

乳房再建手術を受けるにあたっては、乳がん治療との兼ね合いをはじめ、痛みのことや仕上がりのことなど、さまざまな不安や疑問があることだと思います。手術を受けようとする方々から寄せられることの多い基本的な疑問や質問を集め、乳房再建手術に豊富な実績を持つ医師のご見解をうかがってみました。

※回答は各医師の見解に基づくもので、実際の診断は患者さん一人ひとりによって異なります。手術をお考えになる方は、必ず担当医師と十分に話し合ってください。


■ 乳房再建手術全般

Q:乳がん手術を終えてから乳房再建手術を行う場合、少なくともどれくらいの時間をおくのがよいでしょうか。

A:◆いちど切開した傷が閉じた場所は、傷あとがまだ落ち着かないうちに再び切ると癒合しにくくなります。私の場合は、乳がん手術から半年間は間をおき、傷あとが安定するのを待ってから再建手術を行うようにしています。(岩平医師)

◆状況にもよりますが、乳がん手術から1年以上、放射線治療の終了から1年以上経過していることが理想的だと考えます。ただし1年以上経過していても、抗がん剤治療中の方やリンパ節への転移が数多く認められた方は局所再発の可能性を勘案する必要がありますので、この場合は形成外科医の判断ではなく、患者さんの主治医である乳腺外科医の所見や考え方を仰いだうえで待機期間を検討していきます。(佐武医師)

Q:乳房再建手術を受けるまでのあいだ、どのようなことに気をつけて過ごせばよいでしょうか。スポーツが再建手術に影響するということはありますか?

A:◆何より大切なのは健康的な日常生活を送ることです。適度にスポーツを行うと身体各所の血流がよくなり、筋力アップにもつながりますし、手術を受けるための体力も養われます。呼吸機能も改善し、全身麻酔手術にも有効ですので積極的に行ってください。(佐武医師)

Q:乳房再建手術を受けることが、乳がんの再発に何らかの悪影響を与えるということはありますか。

A:◆乳房再建手術を受けることが、乳がんの再発リスクを高めるというエビデンスはありません。乳がんがしっかり切除されていないと再発のリスクが高まりますが、そのことと乳房再建手術とのあいだには直接的な関係はありません。
なお、進行具合により放射線治療なども必要と判断された場合は、乳がん手術と同時ではなく、時間を置いてから乳房再建を行う“二次再建”という方法を選ぶこともできます。

また乳房再建手術を受けると、乳がんが再発したときに見つけにくくなるということもありません。もし局所再発があっても、再発箇所が軟部組織であれ骨であれ、超音波やCT検査ですぐに発見することができますので、インプラントを入れたことが発見の障害になるということはありません。再発はインプラントの上、すなわち身体の表面に近い場所に起こるものなので、容易に発見することができるからです。(土井医師)

Q:乳房再建手術を受ける年齢的なリミットはありますか。高齢でも大丈夫でしょうか。

A:◆患者さんの平均年齢は40代ですが、65歳以上の方で穿通枝皮弁の手術を受ける方も大勢いらっしゃいます。私が手術を行った最高齢は80歳でした。多くは若いころに乳がんを経験された方々で、ハルステッド法といって大胸筋から脇の下のリンパ節まで広範囲に患部を切除する手術を受けている方が大半です。その場合は手術による皮膚や筋肉の欠損が大きく、インプラントによる再建が難しいため、自家組織による再建が適しています。

高齢であるということ自体がリスクになる場合もあり得ますが、日ごろから規則正しく健康的な生活を送っていて、大きな疾患がなく、全身麻酔がかけられる身体状態であれば問題ないと考えます。高齢者ほど入院日数が長くなるというデータは、少なくとも私たちのところでは把握してはいませんし、「きれいな胸を再建したい!」と強く望み、前向きに手術に臨まれる方ほど回復も早い傾向にあるようです。(佐武医師)

Q:若年性乳がんと診断され乳房を全摘しました。できればいずれ子どもを産みたいと考えていますが、 乳房再建手術を受ける場合どのような点に注意すればよいでしょうか。

A:◆乳がんで乳房全摘出を行った方は、およそ2年の期間をあけた後に妊娠・出産が可能になると考えます。2年あけるのは、再発の有無の経過をみる必要があるためと、化学療法、ホルモン療法や放射線治療などの術後補助療法があるためです。

妊娠・出産を前提としている患者さんも、乳がんによる乳房再建を希望する一般の患者さんと同じように再建手術を受けることができます。
私の患者さんでも、若くして乳房を全摘した後に乳房再建を行い、結婚・妊娠・出産をした方がたくさんおられますので、乳房再建手術が妊娠・出産の障害になると考える必要はまったくありません。

ただし、妊娠・出産を前提とする方には適した術式とそうでない術式があります。
●自家組織による乳房再建
広背筋皮弁による再建は腹部の組織を用いないので、妊娠・出産に影響することはありません。一方、腹部皮弁(腹直筋皮弁、穿通枝皮弁)の場合は腹部に手術による傷ができるため、将来妊娠・出産を予定している若い方は通常適応になりません。
●人工物(インプラント)による乳房再建
人工物(インプラント)は大胸筋の下に挿入されますから、妊娠・出産に際してインプラントが影響することはありません。

次に乳房再建手術のタイミングですが、前述のように、乳房全摘手術直後は約2年のあいだ妊娠・出産を控えなくてはなりません。非浸潤がんやホルモン治療のみの場合は全摘術後6カ月すればいつでも再建できます。また化学療法を行う方は、化学療法中の再建はできませんが、化学療法終了後2〜3カ月が経過し、血液中の白血球が正常にもどれば再建可能になります。放射線治療を行った場合は1年以上期間を空けます。

ただし化学療法、ホルモン療法、放射線療法などの補助療法をどのくらい行うのかは個人によって異なりますので、どの時期に再建を行うかは乳腺外科の主治医ともよく相談してください。その後、乳腺外科の医師と再建を行う医師が相談して手術の時期を決めます。

乳房再建手術そのものは、妊娠・出産に影響することはありませんので、安心して手術を受けていただいて構いません。ただし、妊娠・出産を前提とする方は、他に以下のような点にも留意してください。
① 自家組織および人工物(インプラント)のどちらの再建でも、妊娠・出産に伴って健側の乳房が再建側より大きくなり左右のバランスが崩れます。
②産後授乳が終わると徐々に健側が小さくなるのでバランスは徐々に回復しますが、妊娠・出産前と大きさに違いが生じることがあります。
③乳がんの補助療法中は、授乳ができないこともあります。
以上のことをよく理解して再建にのぞんでいただきたいと思います。(矢永医師)

 

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■ 乳がん治療との関係

Q:乳がん治療中に再発や転移がわかった場合「乳房再建手術」は受けられますか?

A:◆「乳房再建手術」の際に全身麻酔をかけると、どうしてもある程度の免疫力の低下を招きます。抗がん剤治療中は免疫力を下げないほうがよいので、こうした場合は再建を先送りにすべきと思われます。ただし比較的短時間で終わるインプラントによる手術であれば、乳腺外科医が許可する可能性もあります。

万一、術後に合併症が起きたときには乳がん治療にも影響がありますから、こうした場合はやはり乳がん治療に専念することが基本となります。しかしどうしても再建を希望される場合は、必ず乳腺外科医と形成外科医が緊密な連携を取れる体制の整った医療施設で、医師とよく話しをしたうえで再建手術を受けるようにしてください。(武石医師)

Q:抗がん剤治療中の再建は避けたほうがよいでしょうか。ホルモン治療を受けている場合はどうでしょうか。

A:◆抗がん剤治療を始めると白血球の数が減り、傷が治りにくくなったり、感染症を起こしたりするリスクが高まります。この時期は、できれば手術は行わないほうがよいと思いますが、当院の患者さんの40%は抗がん剤治療と並行して乳房再建を行っており、方法次第では決して再建できないというわけではありません。

同じ理由でエキスパンダーへの注水も避けた方がよいのですが、抗がん剤の投与が1クール終わった直後と、次の投与が始まる直前は白血球数は低下していませんから、当院ではこの時期に注水を行います。(岩平医師)

◆抗がん剤による副作用のあらわれ方は人によって違い、治療を始めてみないとわからないことも多いので、「再建手術ありき」で考えるのではなく、まずは抗がん剤治療を無事に終えることを優先したほうがよいと思います。
一次再建の場合は、再建手術後に抗がん剤治療が行われる場合もありますが、再建をしたことが抗がん剤治療に悪影響を及ぼすことはありません。ただし自家組織による一次再建に関しては、腹部や背部などの傷が、抗がん剤のせいで治りにくくなったり感染症を起こしたりすることもあり得ますので、これらの傷が癒えるまで抗がん剤治療の開始が先延ばしになる懸念はあります。こうした問題を除けば、乳房再建と抗がん剤治療が相互に悪影響を及ぼしあうことはないと考えます。

ホルモン治療についても、再建手術そのものへの影響はありません。ただしホルモンの影響で、再建していない側の乳房の大きさが変わったり、体型に変化が生じたりすることがあります。この場合は必要に応じて再建した胸を修正して左右のバランスを整えることも可能です。(三鍋医師)

◆乳房再建手術を受ける患者さんたちの多くは、抗がん剤やホルモン治療中です。

抗がん剤治療中は、白血球の減少などで傷が治りにくい、感染症を起こしやすいといったリスクがあるだけでなく、副作用による精神的な負担が大きくなりがちで「再建どころではない」という心理状態に陥る場合もあるため、私は抗がん剤治療がすべて終わっていることを再建手術の前提としています。またホルモン療法は通常5年間行われますが、その間はホルモンの影響で体型や胸の形が変わりやすいため、治療中に再建手術を受ける方には体型を維持するよう指導しています。(佐武医師)

Q:いわゆる“トリプルネガティブ乳がん”の人は乳房再建が受けられないと聞きました。本当でしょうか。

A:◆乳がんの発生と増殖に関するHER2、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体という3つの因子に無関係に発生する“トリプルネガティブ”というタイプの乳がんは、これらの因子に対応するハーセプチンという薬やホルモン剤が効かず、一般に乳がん手術後の予後が悪く再発リスクが高いとされています。しかしトリプルネガティブの方の再建が、乳がんの再発に悪影響を及ぼすというエビデンスはありません。現在そこにがん細胞が認められないのであれば、その方に合った方法で再建することに問題はないと考えます。

乳がんの遠隔転移が発覚してから乳房再建手術を受け、水着を持ってグアム旅行を楽しんでこられた患者さんもいらっしゃいます。患者さん自身のQOL(生活の質)を高めるうえで大切なものであれば、乳房再建までネガティブに考える必要はまったくないと思います。(三鍋医師)

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■ 放射線治療との関係

Q:乳房温存手術の後、放射線治療を受けたところ、放射線の影響で皮膚が固く薄くなっているので再建は難しいといわれました。再建できる可能性はまったくないのでしょうか。

A:◆インプラントを入れた後に放射線治療を受ける場合、放射線によってインプラントが破れることはありませんが、皮膚の表面が焼けて硬くなりますので、皮膚が伸びにくくなったり穴が開いたりするリスクは高くなります。もしそうなってしまった場合は、自家組織での再建に切り替えることもあります。(岩平医師)

◆放射線治療では通常、リンパ節転移が4カ所以上ある場合は胸壁に放射線を照射するため、その部分は傷の治りが悪い、皮膚や皮下脂肪が固くなり伸びにくい、血管が固くなってつなぎにくいなどの報告がなされています。しかし1年以上経過すればその影響も小さくなってくることが多く、その場合は手術も可能だと考えます。(佐武医師)

◆自家組織を使った再建であればまったく問題はありません。放射線照射でダメージを受けた部分の皮膚を切除して、そこに腹部の皮膚を移植して置き換えればよいからです。ただし、胸の皮膚がパッチワーク状になることは避けられません。
そうした方法を希望しない場合、皮膚のダメージの状況にもよりますが、ティッシュ・エキスパンダーを挿入して胸の皮膚を膨らませ、あとでインプラントに入れ替える方法をとることも、実は6~7割くらいの方が可能です。残りの3~4割は合併症が起きるリスクが高く、エキスパンダーとインプラントの使用による再建お勧めできません。

ただ放射線照射で皮膚が硬化し、エキスパンダーの使用は無理と思われる場合でも、ホホバオイルなど保湿性の高いクリームを1年間ほど塗布し続けることで組織が柔らかくなることもあります。しばらく塗布を続けてみて、やわらかくなる可能性が高いようなら、様子を観察しながらエキスパンダー使用の可否を判断します。いずれにしても、放射線を当てたためにインプラントでの再建がまったく不可能になるということはありません。(高柳医師)

Q:放射線治療後は、どれくらいの期間をおけば乳房再建ができるようになりますか? 放射線治療後、ヒルドイドソフト軟膏を塗った皮膚のケアを続けるよう医師から勧められていますが、いずれ乳房再建手術を受ける際にどのようなメリットがあるのでしょうか。

A:◆放射線の最終照射から最低6ヶ月間、ヒルドイドソフト軟膏によるマッサージを続けてみてください。その際には、マッサージした皮膚が手の動きにつれて揺らせるようになり、つまみ上げられる状態になっているかどうかを確認してください。そのよう状況になっていたら医師の診断を受け、皮膚のやわらかさや弾力性がじゅうぶんに回復していると判断された場合は、エキスパンダーを入れるところから再建ができる可能性があります。(岩平医師)

◆照射による皮膚への影響ですが、皮脂分泌や発汗機能の低下により皮膚が乾燥し、角質のターンオーバーが弱まっています。軟膏、クリームで保湿することはプラスに働くため、術前のスキンケアは重要です。乳房再建の時期については、目安として、放射線治療による障害が落ち着くまで最低1年は開けたほうがよいと考えます。(佐武医師)

Q:乳がん治療における放射線照射は、その後の乳房再建や乳頭乳輪の再建に何らかの影響をおよぼすでしょうか。

A:◆どのような影響が出てくるか、すべてケース・バイ・ケースではありますが、放射線治療は乳房再建に何らかの影響を及ぼします。

まずインプラントによる再建では、放射線照射を受けている人は、受けていない人よりも被膜拘縮になる速度が早いという傾向があります。

また乳頭・乳輪の再建への影響としては、放射線を照射した部分に乳輪・乳頭を移植する場合、その部分に十分な脂肪が残っているかどうか、セルフマッサージや保湿をたんねんに行っているかどうかなどによって、移植した組織の定着が違ってきます。
乳頭の移植だけであれば、表面積が小さいので、放射線照射後の皮膚でもたいてい生着しますが、皮弁を立ち上げて乳頭を作る場合は、血流が悪いためにうまく定着しなかったり、乳頭の高さが得られなかったりすることがあります。(岩平医師)

◆自家組織による再建では、放射線を当てたことで胸の血管がダメージを受けることはほとんどなく、放射線照射のために遊離皮弁での再建ができないということは基本的にはありません。
重要なのは乳がん手術後の乳房皮膚のコンディションがどうなっているかです。たとえば、乳がん手術のために血流がわるく皮膚が薄くなっているところに放射線を照射すると、皮膚がダメージを受けるため、瘢痕(傷痕のような状態)、色素沈着・色素脱出となるため、きれいに乳房再建することが難しくなります。この場合、乳房皮膚を他の部位のきれいな皮膚で置き換えることも選択肢の一つだと思います。(佐武医師)

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■ シリコンインプラントによる乳房再建

Q:ティッシュエキスパンダーの挿入後、またはインプラントへの入れ替え後に、痛みや違和感があると聞きます。どのような痛みや違和感があるのでしょうか。これはどれくらい続くものなのでしょうか。

A:◆インプラントによる乳房再建を希望する患者さんにとって、エキスパンダーやインプラントを入れたときの痛みや違和感はたいへん気になるところだと思います。初診時にもこれに関する質問をよく受けます。

エキスパンダーの術後拡張期間は、皮膚が伸びて慣れてきたらまた水を足すという繰り返しになりますので、必ずつっぱり感や違和感があります。ほとんどの方は日常生活に困らないレベルだとおっしゃいますが、個人差はあり、時々苦痛を強く感じる人はおられます。その場合は、一度に入れる水の量を少なくして、時間をかけて皮膚を伸ばすようにすればほとんど問題はないと思います。

またエキスパンダーからインプラントに入れ替えた後は、大半の方が違和感がかなり減ったとおっしゃいます。最初は違和感を感じても、時間の経過とともに徐々に改善するようです。寒いときや天気の悪いときに違和感や古傷がうずくような痛みがあるという声も時々聞きますが、他の外科手術を受けたときと同じことで、これも個人差があります。(身原医師)

Q:以前、内容物が流動性の高いソフトジェルタイプのシリコンインプラントで再建を受けました。硬めのコヒーシブタイプのものより体内で破損して流れ出しやすいと聞きました。破損の危険性や、その場合の体への影響は大きいのでしょうか。

A:◆ソフトジェルタイプのインプラントは、メーカーのデータによると3年以内の破損はほとんど報告されておらず、3年経過後の破損率は1年に1%程度とされています。強い外的刺激を受けたときなど、体内での破損が絶対に起きないというわけではありませんが、経験的にも決して簡単に破損するようなものではありません。

またシリコン自体が非吸収性・低刺激性の素材なので、万一破損することがあっても、ただちに体に悪影響をおよぼすことはありません。

むしろ問題は、破損を長期間放置してしまうことです。インプラントを体に挿入するとその周囲には傷跡組織による被膜という薄いカプセルができます。ソフトジェルタイプのインプラントが破損すると、シリコンジェルは被膜内にとどまり外へ漏れ出すことはありませんが、患者さんが異常を発見することは困難です。これを長いあいだ放置すると、被膜の周囲への浸潤が起きたり炎症を起こしたりする恐れがあるため、インプラントによる再建手術には超音波やMRIをもちいた定期的な経過観察が重要となります。

インプラントの保険適用開始に際しては、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会のガイドラインでも、2年に一度のMRIまたは超音波による検査を含め、最低10年間は経過を観察することなどを明確に定めています。定期的な検査を怠らなければ、万一破損があっても発見することができますので不安に感じることはありません。(南雲医師)

Q:乳房の全摘出後すぐにティッシュエキスパンダーを挿入する前提で手術が行われている途中で、エキスパンダーの挿入が中止される場合があると聞きました。どういう理由によるものなのでしょうか。

A:◆以前に勤務していた「がん研有明病院」の考え方に則って説明します。同病院の方針では、乳房全摘出と同時にティッシュエキスパンダーの挿入を行うのは、乳がんのステージが比較的低い非浸潤がん、もしくは浸潤がんでもステージ2Aまでで、センチネルリンパ節(※)へのがん細胞の転移が1個までのものを対象としています。ご質問の事例が同病院の患者さんについてであれば、手術中に行ったセンチネルリンパ節生検で転移が2個以上見つかったため、エキスパンダー挿入が中止されたものと考えられます。

同病院がこのように判断するのは、最終的な永久病理標本の結果からも、「センチネルリンパ節への転移が1個までであれば、リンパ節転移が4個を超えることはほとんどない」という根拠があるからです。したがってその場合は予定通りティッシュエキスパンダーの挿入を行います。種々の状況よっては化学療法(抗がん剤治療)を併用することはあり得ますが、放射線照射まで必要になるケースは経験的にもほとんどありません。

もしセンチネルリンパ節生検で転移が1個でも見つかれば、ティッシュエキスパンダーの挿入は中止するという基準を作ってしまうと、相当数の患者さんが一次再建の機会を失ってしまうことになります。そこで病院独自の判断として、病理標本の結果やこれまでのデータなどを踏まえた総合的な見地から、このような方針をとっているわけです。もし2個以上見つかった場合は、乳房再建手術は先延ばしにして、いましばらくがん治療に専念していただくことになります。(矢島医師)

※センチネルリンパ節:乳がんは、乳腺内のリンパの流れに乗って脇の下のリンパ節にまず転移します。最初にリンパが入り込むリンパ節をセンチネル(見張り役という意味)リンパ節と呼び、ここにがん細胞の転移がなければ、それより先への転移はないと判断することができます。そこで最近は、乳がん手術中にセンチネルリンパ節を特定して切り取り、組織への転移の有無を調べる方法がとられるようになりました。これをセンチネルリンパ節生検といいます。従来の脇の下のリンパ節全体を切除(郭清)する方法では、上腕のむくみや神経の障害などの合併症を伴いがちでしたが、センチネルリンパ節生検の普及によって患者さんのQOLは大きく向上しつつあります。

Q:シリコンインプラントによる再建には、合併症が起きるリスクがどの程度あるのでしょうか。手術後はどのようなことに気をつけて過ごせばよいでしょう。また時間の経過に伴うインプラントの入れ替えは必要なのでしょうか。

A:◆1年に1回、再建手術の執刀医による診察をきちんと受けていれば、再建後の合併症を気にする必要はまずありません。もし気になることがあればすぐ診察を受けるよう心がけ、乳腺外科の主治医にも年に1度は診察を受けるようにしていれば、普通の日常生活を送っていてかまいません。できればストレッチや運動を日ごろから行い、皮膚を伸ばすようにすればなおよいでしょう。

インプラントについては、10年を経過したら入れ替えが必要という説が流布しているようですが、そのようなことはありません。インプラントの耐用年数が10年程度ということはなく、私が手術をした患者さんでも10年以上入れ替えていない方が大勢います。
ただ10年を経過すると、加齢やホルモン剤の影響で健側に下垂が生じたり、被膜拘縮が起きたりして、入れ替えたほうがよい状況になることがあります。そうした際に、入れ替えの要否について適切な判断をするためにも、長期にわたって付き合っていける形成外科医にかかり、1年に1度は受診することをお勧めします。(岩平医師)

 

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■ 自家組織による乳房再建

Q:乳がん手術で乳房を全摘したのち、自家組織を使って”二次再建”を行うと、お腹の皮膚を移植するため、乳房がパッチワークのようになると聞いて、できあがりの見た目に不安を感じています。

A:◆乳がん手術で乳房を全摘している場合は、一次再建でも二次再建でも、自家組織による再建では、乳房のふくらみを作るのに必要な皮膚を得るため、腹部の皮膚を胸に移植する方法をとることが一般的です。

胸と腹部の皮膚はとてもなじみがよいので、時間が経てば傷あともかなり目立たなくなっていきますが、そうした見た目を好まない場合は、ティッシュ・エキスパンダーを使って胸の皮膚を引き伸ばす方法をとります。
通常、半年ほどの時間をかけてエキスパンダーに徐々に水を足して膨らませていくため、時間はかかりますが、その間に当初の予定通り自家組織で再建するか、インプラントでの再建に切り替えるかを考えなおすこともできます。二次再建の場合、エキスパンダーの挿入も再建手術も、乳がん手術の傷あとを使って行いますので、それ以上傷が増えることはありません。

ただ、放射線照射で皮膚が薄く固くなっていて十分に伸ばせない場合は、腹部からの皮膚移植によって足りない皮膚を補わざるを得ない場合もあり、その場合はパッチワーク状になることがあります。

また一次再建の場合でも、乳がん摘出と同時にエキスパンダーを入れておいて、半年後くらいをめどにインプラントないし自家組織に入れ替える方法をとれば(一次二期再建といいます)、パッチワーク状にはなりません。
乳房再建手術には、さまざまな方法とタイミングがありますので、主治医とよく相談をして、乳がん治療の状況なども勘案して、ご自分に合った術式を選択してください。 (茅野医師)

Q:喫煙者は自家組織による乳房再建はできないと言われましたが、本当でしょうか。

A:◆手術で切られた皮膚や血管は、末梢血管の働きによって最終的にきれいに癒合します。しかしニコチンには末梢血管を縮小させ血行を悪くする作用があるため、喫煙者は手術の傷が癒合しにくくなります。傷がなかなか癒合しないことによる合併症が起きる可能性にも配慮する必要があります。乳頭・乳輪の形成手術の場合も同様で、喫煙者は乳頭の先端まで血液がめぐりにくく、組織が死んでしまって形成した乳頭が取れてしまうこともあります。喫煙習慣のある方は、こうしたリスクについても充分説明を受けたうえで手術に臨むようにしてください。(岩平医師)

Q:穿通枝皮弁による乳房再建手術ができないのは、身体状況としてどのような場合が考えられますか。

A:◆心疾患や未治療の糖尿病患者さんなど、基礎疾患がうまくコントロールできていない患者さんの場合、手術が適応とならない場合があります。また抗リン脂質抗体症候群という疾患など身体各所の血管内に血栓ができやすい場合、遊離皮弁による再建術はリスクが高くなるため、やはり手術の対象外となることが多いです。しかし内科的な治療によりコントロールできれば、手術が可能となることもあります。乳癌の後療法として抗エストロゲン剤を内服されている場合は、血栓症の影響を少なくするために手術前後で一時的に休薬することがありますので、形成外科医にご相談ください。(佐武医師)

Q:自家組織で再建した場合、ドナーとなった部分にはどのような後遺症が出るのでしょうか。生活していく上での注意点はありますか?

A:◆自家組織を用いる再建では、手術後にドナー部の皮膚と皮下脂肪を採取したことによるつっぱり感や痛みが出ることがあります。人によって程度の差はありますが、通常3ヵ月から半年ほど続きます。筋皮弁でも穿通枝皮弁でも、腹部をドナーにした再建の場合、腹部の筋肉が温存されていても、縫合した糸がはじけてヘルニアのようになることがあります。こうしたことを防ぐには、術後2~3ヵ月くらいは重いものを持ったり、長時間の立ち仕事など腹部に負荷がかかるようなことは避けてください。太ったり便秘になったりしないように心がけることも大切です。身体の後面側である背部(広背筋皮弁)や、腰部、殿部または大腿部から穿通枝皮弁を採取した場合は、皮下に水がたまる漿液腫を合併することがあります。ドナーとなる部位ごとに異なるリスクがありますので、形成外科医に確認するようにしましょう。(佐武医師)

Q:乳房再建手術で腹部をドナーにした場合、そのために下肢がリンパ浮腫になるということはあるでしょうか。

A:◆腹部から遊離皮弁を採取する際に、鼡径からリンパ節を多く含めて採ると下肢にリンパ浮腫を合併するリスクが高まります。しかし通常の腹部皮弁で下肢にリンパ浮腫を合併することは稀です。一時的に恥骨部、上腹部が浮腫むことがありますが、あまり多くはありませんし、しばらくすると軽快します。(佐武医師)

Q:自家組織で再建した場合、年月の経過に伴う修正手術は必要になりますか?

A:◆皮膚や皮下脂肪に含まれる支持組織は加齢による変化を受けます。時間の経過で薄く緩くなるため、伸びて下がってくることがあります。自家組織で再建した乳房は、その重さや加齢に伴う自然な下垂が生じます。極端に太った場合、左右のバランスを揃えるために、再建乳房の脂肪吸引や切除を修正術として行う場合があります。(佐武医師)

Q:腹部に手術歴があると、腹部をドナーとする自家組織での乳房再建を行うのは難しいでしょうか。

A:◆腹部の手術にもいろいろなものがありますが、基本的には過去の手術痕のためにドナーにできないということはありません。ドナー候補となる部分は、手術前に血管造影によるCT検査を行い、そこに血管が残っていることがきちんと確認できれば、多くの場合、手術の既往歴があってもドナーとして使うことが可能です。(佐武医師)

Q:広背筋皮弁による乳房再建を希望していますが、作れる乳房の大きさには限界があるでしょうか。健側が大きい場合は、インプラントで再建するしかないでしょうか。

A:◆広背筋皮弁による再建は、基本的には乳房が小さい患者さんに適しています。広背筋皮弁による再建では、腹部に比べて採取できる自家組織の量が少ないので、全摘後の乳房を再建する場合は、広背筋とインプラントを併用する方法がヨーロッパなどでは盛んに行われています。
背部に連続して腰部から多めに脂肪組織を採取する方法もありますが、それだけ背中の傷や変形が大きくなります。広背筋をドナーにしたい場合は、血流の良い組織を必要最小限に採取することを優先し、それできれいな乳房ができる患者さんだけが適応になります。温存手術など部分再建に有用です。(佐武医師)

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■ 乳頭乳輪の再建

Q:タトゥーによる乳輪の再建を考えていますが、色がおちやすいとききました。どのくらい色は消えてしまうものなのでしょうか。タトゥーのみで乳頭乳輪を作ることもできるそうですが、どの程度自然な感じになるのでしょうか。

A:◆タトゥーだけでもかなり立体的で自然な感じに見せることは可能ですが、これはタトゥーを入れる施術者の技術とセンスによるところが大きいと思います。退色については個人差があり、半年ほどで薄くなってくる人もいれば、10年経ってもほとんど変化しない方もいます。できあがりについては技術に負うところもありますので、経験のあるところで行うのがよいでしょう。(岩平医師)

Q:再建手術後2年が経過し、乳頭乳輪の再建を検討中です。主治医からは、患側の皮膚を立ち上げて巻くような形で乳頭を作る方法を提案してもらっていますが、どのような出来上がりになるのでしょうか。

A:◆皮弁を立ち上げて乳頭再建する場合、人為的に作成した隆起であるため、術後の年数が経過するうちに高さがかなり減ってきます。そのため手術時には、その分を見越して高めに作ることが一般的です。また乳頭再建の方法だけでなく、乳がん手術の方法やエキスパンダーの使用の有無などにより、再建材料である皮膚、皮下脂肪などの厚さが異なるため、患者さんごとに条件が異なり仕上がりに違いが出ることがあります。軟骨、腱、人工骨などを入れて再建乳頭の平坦化を予防することがあります。(佐武医師)

Q:タトゥーによる乳輪の再建を考えていますが、色がおちやすいとききました。どのくらい色は消えてしまうものなのでしょうか。タトゥーのみで乳頭乳輪を作ることもできるそうですが、どの程度自然な感じになるのでしょうか。

A:◆皮膚移植でもタトゥーでも、時間が経つと手術直後よりも多少色は薄くなります。それを見越して、タトゥーを濃い目に入れるなど色を調整することがあります。退色したときは、タッチアップといって追加で色を入れることができます。また乳頭・乳輪の再建では大腿部基部からの皮膚移植もよく行われていますが、オリジナルの乳頭・乳輪の色とまったく同じではないので、皮膚移植を行ったうえにタトゥーをプラスして色調を調整することもあります。乳輪の辺縁部のぼかし(グラデーション)は、タトゥーの方がより自然に再現することができます(佐武医師)

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■ 術後の傷ケアについて

Q:手術から時間が経っていますが、これからでもケアすればきれいになりますか?

A:◆傷あとのケアは、術後すぐが望ましいです。個人差はありますが、時間が経ってしまっても、肥厚性瘢痕やケロイド等の保護を目的としたシリコンジェルシートで、傷を押さえるなどのケアを行うと良い場合もあります。ですが、術後5年以上経過した場合は、一度、形成外科の傷あと外来で、ご相談されることをおすすめします。薬剤や放射線、傷を一度開いて縫い直すなど、ケアではなく治療が可能です。(西出講師)

Q:テープかぶれしやすく、手術後のテープ療法ができない場合のケアの仕方を教えてください。

A:◆テープを貼る前に、素肌を保護する保湿ジェルを塗布するとかぶれにくくなります。また個人の体質によって、合うテープ、合わないテープがあるので、いろいろ試してみるのもいいでしょう。また、シリコンジェルシートもおすすめです。傷口の保湿や固定をするもので、繰り返し使用できます。軽く石けんをつけて洗って乾かし、粘着力が復元したら、また貼り付けることができます。シリコンジェルシートには、テープに含まれる接着剤(アクリル系の成分)が含まれていないため、かぶれないという方もいます。個人差もありますので、異常を感じたらすぐに使用をやめ、傷あと外来などの医療機関を受診してください。(西出講師)

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■ その他

Q:乳房再建手術を受ける患者さんに対する精神面のサポートが充実している病院かどうかを知るには、どういったことを確認すればよいでしょうか。

A:◆これは病院の体制というよりも、主治医となる医師にすべてを任せられるかどうかということなので、まずは医師に会って相談をしてみることです。乳腺外科を選ぶ場合も同じですが、コミュニケーションがうまく取れる医師を選ぶようにすることで、手術や治療に対する心理的な満足度も大きく違って来ます。(岩平医師)

◆病院によっては、“ブレストケアナース”(乳がん看護認定看護師)といって、乳がん治療全般に関するケアを専門に学んだ認定看護師がいて、精神面を含む乳がん患者さんのいろいろな相談に乗ってくれます。また各地域のがん拠点病院には“がん相談室”というものが設置され、自分がその病院の患者でなくても利用することができます。そうした病院を探して相談してみるとよいでしょう。(土井医師)

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《Q&Aにご回答くださった医師(順不同・敬称略)》
・医療法人社団 ブレスト サージャリークリニック 院長 岩平佳子
・埼玉医科大学総合医療センター 形成外科・美容外科 三鍋俊春
・医療法人社団 蘇春堂形成外科 矢島和宜
・横浜市立大学附属市民総合医療センター 形成外科 佐武利彦
・矢永クリニック形成外科 院長 矢永博子
・ナグモクリニック 総院長 南雲吉則
・(社)乳房再建研究所 理事長  武石明精
・医療法人新都市医療研究会「君津」会 南大和病院 形成外科 茅野修史
・広島市立広島市民病院 形成外科 身原弘哉
・メガクリニック 院長 高柳 進
・医療法人湘和会 湘南記念病院 乳がんセンター長 土井卓子
・NPO法人E-BeC理事/医療法人青泉会下北沢病院 外務担当部長 西出薫

このサイトは、医療に関するコンテンツを掲載しています。乳がんや乳房再建手術に関する各種情報や患者さん・医療関係者の談話なども含まれていますが、その内容がすべての方にあてはまるというわけではありません。 治療や手術の方針・方法などについては、主治医と十分に相談をしてください。

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