社会復帰を後押しするために、患者さんに幅広い選択肢を提示したい
矢野 智之(やの ともゆき)
がん研有明病院 形成外科部長
術式:
・自家組織(穿通枝皮弁。ドナーは腹部、太もも、腰部)
標準手術時間:
・自家組織 腹部・太もも 6~7時間程度、腰部 7~8時間程度
標準入院日数:
・術式によらず約10日
乳頭・乳輪再建の時期:
・乳頭:皮弁を立ち上げ 乳房再建の半年後を目安
・乳輪:タトゥー 乳頭再建の3か月後
がん研有明病院で自家組織再建を増やしていきたい
私はもともと、国立がんセンター東病院と東京医科歯科大学で、頭頸部・頭蓋底再建を担当していました。その後、異動した病院で、私がマイクロサージャリー(血管吻合)ができるということで「乳房再建を担当してくれないか?」とお声がけいただき、それをきっかけに、乳房再建を本格的に手掛けるようになりました。
その後、ベルギーのブロンディール先生(ゲント大学)のところで、1年間、臨床留学しました。ブロンディール先生は、乳房再建ではとても有名な方です。このときの経験が、私の診療における軸になっています。
帰国後、2017年にがん研有明病院に入りました。当時のがん研有明病院ではインプラントによる再建が多く、自家組織再建は月に1〜2件あるかないかでした。そこで“自家組織による再建”の割合を増やしていきたいと考えました。
これまでインプラントを含めた再建手術が、年間で7〜800件。1日5〜6件の手術を行っており、がん研有明病院以外の患者さんを受け入れる余裕はありませんでしたが、2020年度より受け入れを開始しました。
社会復帰を後押ししたい。頭頚部でも乳房でも変わらぬ思い
私は、がんによって整容面が崩れ、社会復帰が難しくなっている方に対して、少しでも元の状態に近づけ、社会復帰を後押ししたいと思っています。
それは頭頸部でも乳房でも変わらず、形成外科医として共通する思いです。
乳がんを患った人が乳房再建を検討すると、世間の人たちに「見た目の問題だろう」と思われてしまう。しかし実際には、女性は下着を着けて、洋服を着て社会に参加する。
見た目だけではなく、社会生活を送る上での大事な機能だと思うのです。たとえがんにかかったとしても、その方が社会復帰や子育てなど、少しでもがんを患う前の生活に戻っていけるようにサポートできたら、という思いで診療にあたっています。
患者さんの生活背景などを踏まえ、幅広い選択肢を提示したい
私が、診療に際していちばん大事にしていることは、できるだけ幅広い選択肢を提示するということです。
患者さんによっては、インプラント再建が素晴らしい選択肢になります。また自家組織再建も、お腹、内股、腰、背中など、できる限りの選択肢を提示して、その方の体型や生活背景(お仕事、子育てなど)に対して、無理がなく、ご本人が納得できるものであれば素晴らしい選択肢になると思っています。
ですから、患者さんには、どうぞ遠慮せずご希望をおっしゃっていただきたいと思っています。
あとから「実はこうしたくなかった」というようなことは、できればなくしていきたい。
また、決して多くはないのですが、やりたい術式へのこだわりが強すぎて、けっこう無理な希望をおっしゃる場合があります。そういった方には、セカンドオピニオンでほかのドクターの意見を聞いていただきます。それでも、なかにはそのこだわりから抜け出せないこともあって、ご自分にとって何がベストの選択なのか、冷静に考えていただきたいと思っています。
医師と患者も人間対人間なので、相性というものもあると思います。どうしても相性が合わないなと感じた場合は、主治医を変えてもよいと思います。病院によっては、対応できる医師が1名しかいないということもあると思うので、そんなに簡単なことではないかもしれないのですが。
がん研有明病院では、主治医を交代することもあります。
私は、医療者側の体制を整えることも一つの使命だと思っています。多くの再建外科医がオーバーワークゆえに40代ぐらいで潰れてしまい、一線から外れてしまいます。
また、形成外科医に男性医師が多く、女性の気持ちに寄り添いきれないところもあるのではと感じています。インプラントだけでなく、自家組織再建もできる女性医師の育成も大事だと思っています。
これからは、医療者による情報発信が重要になってきます。がん研有明病院もYoutubeによる情報発信を始めました。
患者さんが、最良の治療を選択できるよう、今後も乳房再建に関する情報発信をしていきたいと思っております。
(オンライン取材:2020年9月8日)
名称 | 公益財団法人 がん研究会 有明病院 | ||
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所在地 | 〒135-8550 東京都江東区有明3-8-31 | ||
診察時間 | 毎週月曜日(午前午後/要予約)※2020年9月現在の情報です。受診される際は病院にご確認ください。 | ||
休診日 | 土曜日・ 日曜日・祝祭日・年末年始(12月29日~1月3日) | ||
TEL | 03-3520-0111(大代表) | ||
URL | https://www.jfcr.or.jp/hospital/ |