何よりも大切なのは、患者さんの人生。負担のかからない手術を心がけています
江口智明(えぐち ともあき)先生
虎の門病院 形成外科部長
術式:
インプラント、自家組織(広背筋皮弁、腹部穿通枝皮弁)
標準手術時間:
エキスパンダー 30分、インプラント入れ替え40分~1時間
広背筋皮弁 3~4時間
腹部穿通枝皮弁 8~10時間
入院日数:
エキスパンダー 1週間~10日
インプラント入れ替え 4日
広背筋皮弁 10日
腹部穿通枝皮弁 1週間~10日
乳頭乳輪の再建時期:
インプラント後 3~4カ月以降
自家組織後 半年以降
乳頭は局所皮弁法・移植法、乳輪はタトゥーが多い
治療に踏み出せる。それが乳房再建手術の一番の意義
私が乳房再建手術を手がけるようになったのは20年ほど前。当時在籍していた帝京大学医学部附属病院で、乳腺外科の先生に依頼されたことがきっかけでした。そこでの経験があったため、虎の門病院に赴任後もすぐに再建手術に対応することができました。現在、若手の先生を含め4人体制で再建手術にあたっています。
乳がん患者さんの中には、手術で乳房を取ると聞いて不安を感じ、「取るくらいなら手術をしなくてもいいかな」と、立ち止まってしまう方がいらっしゃいます。乳がんの手術は生きるために必要な治療。乳房を失うくらいならと、躊躇してしまうのは決していいことではありません。
そこで「乳房は再建できるので、治療を進めましょう」とお伝えできると、多くの患者さんが安心して乳がん手術に踏み出せると思うのです。乳房を再建できることで乳がん手術へのハードルが下がり、立ち止まらずに治療を進めることができる。それこそが乳房再建手術の一番の意義だと私は考えています。
患者さんの人生が最優先。負担のかからない手術を心がけています
乳房再建手術のもう一つの意義は、元通りの生活が送れることです。再建手術をしたために決まった下着しか着けられなかったり、うつぶせ寝ができなくなったりと、日常生活で制限が増えてしまうと本末転倒ですよね。これでは再建手術のための人生になってしまいます。
何よりも優先されるべきは、患者さんの人生。再建手術の際は患者さんに負担がかからないようかなり意識し、手術時間や入院日数が短くなるように工夫しています。
当院ではインプラント手術の場合は翌日からシャワー入浴が可能ですし、乳頭再建の場合は日帰り手術で、当日からシャワー浴OKです。
85%の患者さんが乳頭再建手術を受けています
乳頭再建については、私は強くお勧めしていません。むしろ両乳房を取った方にはあえて勧めないこともあります。「下着なしでそのままTシャツが着られてすごく楽です」とおっしゃる患者さんがいましたから。患者のみなさんには必ず「強く勧めるわけではないですよ」とお伝えしています。
それでも当院では85%の患者さんが乳頭再建手術を受けられています。大半の病院が3割程度にとどまっていることに比べると、かなり多い割合ではないでしょうか。
当院の乳頭再建手術は、どの術式でも所要時間は30分。日帰り手術なので入院は必要ありません。仕事は午後から半日休むだけ。当日からシャワーを浴びられて、翌日から日常生活に戻れる。それが、乳頭再建手術を受ける方が多い理由だと思います。
乳腺外科の先生の話をよく聞いて、がんの治療を第一に考えてください
乳がんの治療には多くの選択肢があります。乳腺外科の先生方は「再発率が〇〇%下がる」とデータに基づいていろんな治療を勧めてくださいます。どれが正解で不正解なのか、明確な答えはありませんので、何を選択するべきか迷われる方が多いのではないでしょうか。
そんなときは乳腺外科の先生の話をよく聞いてください。先生方は患者さん1人1人に合う治療法を考え、勧めてくださいますから。
中には手術の際に「乳頭を残してほしい」「目立つところに傷を作らないでほしい」という要望のある方もいらっしゃることでしょう。きれいな胸でいたい気持ちはわかります。しかし、リスクを冒してまで乳頭を残すなどし、再発しては元も子もありません。
乳腺外科の先生は、がんを取り切れるように、再発しないようにと一生懸命、治療法や術式を考えてくださいます。命に関わることですので、先生の話をよく聞いて、乳がん治療を最優先に考えて治療を選択していただくことをお願いします。
乳がん手術で乳頭を取ることになったり、皮膚が薄くなったりと、何か納得できない形になったとしても、後は我々にお任せください。再建手術でご要望にそった形になるよう努めます。安心して、まずはご自身の命を第一に考えて治療を選択してください。
迷ったらインプラントを選択しましょう
乳房再建手術にも、多くの選択肢があります。まずは再建するかしないか。そして、インプラントか自家組織か。迷っている方は多いのではないでしょうか。
再建するかしないか迷っている方には、一次再建でエキスパンダーを入れることをお勧めしています。エキスパンダーを入れてみて、やはり再建をしないと考えればエキスパンダーを取ることは可能です。
さらに、インプラントか自家組織か迷っているのであれば、とりあえずインプラントを選択しましょう。なぜなら、インプラントは後で変更が効くからです。
先に自家組織にして、「こんなに大きな傷が残るなら、やらなければよかった」と後悔しても、どうにもなりません。反対に、先にインプラントを入れ、後から自家組織にしたいと考えが変わったら自家組織の手術を受けることができます。
あるいは、二次再建という方法も視野に入れてみてはいかがでしょうか。乳がんの手術をした後、再建手術についてじっくり考えることができます。
いずれにせよ、再建手術に悩むあまり、肝心の乳がん治療に進めないことが一番の問題です。迷ったらぜひインプラントをご検討ください。
再建手術が必要でなくなるその日まで、一生懸命取り組みます
最近は勉強熱心な若い先生方が多く、「再建手術を学びたい」と学びに来て、どんどん覚えてくれます。環境が整い、再建手術できる医師が増えれば、地方でも再建手術が増えるのではないでしょうか。若手の教育にも力を注いでいきたいと考えています。
私の理想は、いつか再建手術がなくなること。
昔は結核や胃潰瘍で手術を行っていましたが、今は手術が必要でなくなり、薬で治せるようになりました。乳がんも同様で、医療が発達し、いつかは外科手術も、再建手術も必要なく治療ができる日がくるでしょう。そんな時代が早く訪れるのを私も望んでいます。
それまで、私たちは患者さん1人1人と向き合い、納得いただける、喜んでいただける再建手術に取り組んでまいります。
(インタビュー:2025年4月)
名称 | 虎の門病院 | ||
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所在地 | 〒105-8470 東京都港区虎ノ門2-2-2 | ||
診察時間 | 初診(水以外) 8:30~10:30 再診 予約制 | ||
休診日 | 土・日・祝日・年末年始 | ||
TEL | 03-3588-1111(代表) | ||
URL | https://toranomon.kkr.or.jp/cms/departments/plastic_reconstructive/ |