思い通りの再建が叶わなかったことで、乳房再建手術のほんとうの意義を知りました
奈良県 IKさん(50代)
手術方式:「一次二期再建」
(乳がん手術と同時にエキスパンダーを留置。半年後に穿通枝皮弁で乳房再建)
・乳がん手術:
2015年5月 左乳房全摘
執刀・大阪大学医学部附属病院 下村 敦医師
・乳房再建手術:
2015年5月 乳がん手術と同時にエキスパンダーを留置
執刀・大阪大学医学部附属病院 冨田 興一医師(以下同じ)
2015年11月 穿通枝皮弁で乳房再建
2016年5月 下溝線修正および脂肪注入
2017年1月 乳輪乳頭再建、下溝線修正及び脂肪注入
2017年5月 乳頭タトゥー
術前治療:なし
術後治療:抗がん剤(TC療法)3カ月間
乳がんを人生で一番つらい経験にしないため“一次一期再建”を希望
乳がんとわかったのは2015年の1月のことでした。その少し前から左乳房にころころと動く小さなしこりがあるのに気づいてはいましたが、「動くしこりは悪性ではない」という聞き伝えの情報を鵜呑みにして、なかなか腰を上げずにいたのです。でも、私の身に何かあったら困るのは家族だということに思い至り、地元の市立病院を受診。医師から「初期の乳がんだが、部分切除で問題ないだろう」と告げられました。
部分切除を良しとするかのような医師の口ぶりでしたが、乳房再建のことをうっすらと知っていた私には、どうしてもそれが一番よい方法だとは思えません。ちょうど同じころ息子が大きな外科手術を控えており、そちらのほうが優先されたこともあったので、しばらく熟考させてもらった末、部分切除ではなく全摘。インプラントではなく自家組織による一次一期再建(同時再建)を選ぶことに決めました。そうすれば胸を失うことなく、すぐ元通りの生活に戻れる、乳がん自体をなかったことにできる・・・と思いたい気持ちもあったのでしょう。
それ以上に、私には「あとになって、乳がん手術が人生で一番つらい経験だったという思いをしたくない」という強い気持ちがありました。自ら前向きな気持ちで大きな手術に臨むことで、乳がんになった事実を精神的に乗り越えたかったのだと思います。
思いがけず同時再建を断念せざるを得なくなったことで――
主治医に紹介状を書いていただき、大阪大学医学部附属病院に転院。希望通り、左乳房の全摘と穿通枝皮弁法による一次一期再建手術に臨むことになりました。ところが、「これで乳がんのことは忘れて、元の生活に戻れるんだわ」と思ったのもつかの間。乳がん手術中のセンチネルリンパ節生検(※注)で転移が認められ、病院の方針でまずは乳がん治療を優先。同時再建は行わないこととなり、その日の手術はエキスパンダーを入れるところまでで終わりました。
麻酔から覚め、乳房再建ができなかったと知ったとき、初めて私は泣きました。ずっと前だけを見て、自分の思い描いたように病気に打ち勝つ!と心に決めて手術を迎えたのに、張り詰めてきた思いがぷつりと途切れてしまったのでしょう。だからこそ、抗がん剤治療を終えて半年後に穿通枝皮弁で再建が完了したときの感動たるや本当に大きなものでした。もし当初の希望通りに再建がかなっていたら、あれほどの喜びはなかったと思います。乳房再建のありがたさに気づくことさえなかったかもしれません。
あれだけこだわった一次一期再建でしたが、よく考えてみれば、必ずしもそれがベストというわけではありません。じっくりと情報を集め、納得のいく術式を選べるという意味では、二次再建にも多くのメリットがあります。主治医とも十分に相談することができます。これから再建をお考えになる方々には、焦らずにご自分の手術と向き合っていただけたらと思います。
病気で自信をなくした方たちの気持ちに寄り添って
乳房再建と出会ってからというもの、乳房再建に関するセミナーや講演会に参加したり、少しでも皆さんのお役に立てればと、再建した胸を患者会などで皆さんにお見せするような機会が増えました。1年ほど前には、病気のために自信をなくした乳がん患者さんたちの気持ちが少しでも前向きになるようにと、仲間とボランティア活動も始めています。
私自身、病気をして自分が社会的に役立たずな人間になってしまったような思いにかられた時期があったので、自分が人の役に立てると実感することの大切さがわかります。一経験者として、同じ思いでいる方たちの気持ちに寄り添っていけるように、これからも小さな活動を続けていきたいと思っています。
(取材:2018年3月23日)
*インタビュー記事は個人の体験談に基づく感想で、E-BeCで推奨するものではありません。体験談は再建を考える際の参考にしていただき、主治医や医療者とよく相談をして決めるようにしてください。
※センチネルリンパ節生検:乳がん手術の際に、がん細胞が最初にたどりつくとされる脇の下のリンパ節を特殊な方法で見つけ、がん細胞の転移の有無を調べること。転移が認められた場合は、それ以上の転移を防ぐため、その部分のリンパ節を取り除く(郭清という)手術を行います。