• 公開日2018.03.22
  • 最終更新日 2024.02.13

乳房再建医の声

何度でもじっくり話しあって、一緒に乳房再建に取り組んでいきましょう。

小宮 貴子(こみや たかこ) 東京医科大学 形成外科 准教授

術式:
・インプラント
・拡大広背筋皮弁法
・腹部穿通枝皮弁
・大腿の穿通枝皮弁
・部分切除+再建
連携病院:
・厚生中央病院 乳頭乳輪再建(毎週火曜日)
標準手術時間:
・エキスパンダー挿入 1時間、インプラント入れ替え 1時間
・拡大広背筋皮弁 5時間
標準入院日数:
・エキスパンダー挿入 1週間、インプラント入れ替え 1週間
・拡大広背筋皮弁 10日~2週間
乳頭・乳輪形成の時期:
・インプラントによる再建 術後3カ月~6カ月
・拡大広背筋皮弁法による再建 術後1年以降

ボリュームのある胸を作れる拡大広背筋皮弁法

「乳房再建手術を手がける医師になる!」と心に決めたのは、医大の臨床実習で最初に形成外科を回ったときのことでした。乳房再建手術じたいまだ珍しい時期でしたが、初めての実習で見学したのが乳頭と乳輪の再建手術。何もないところにきれいな乳頭・乳輪が作られることへの感激と、失われたものを取り戻す技術の高さへの驚きに、ぜひとも乳房再建を一生の仕事にしたいと思ったのでした。

東京医大では、2015年に乳房再建外来を立ち上げました。乳房再建では乳房のふくらみのみに注目されることが多いのですが、ふくらみに加えて乳頭・乳輪もよい状態に保てるよう、または美しく再建できるよう、トータルケアできる診療を開始しました。
(⇒「乳頭・乳輪の再建手術」についての詳しい解説はこちらへ)

手術件数では圧倒的にインプラントによる再建が多いです。インプラントで乳頭・乳輪が残せた場合、通常位置が上方にずれてしまい、せっかく残せたのになんだかちょっと違う・・・ということが起こりがちです。エキスパンダー手術の際に位置がずれないような工夫をし、インプラント入れ替えの際に乳頭・乳輪が左右対称になるよう整えます。乳癌手術のさいに乳頭・乳輪を切除する方に関しては、あらゆる術式からご本人に最適な方法を選択し再建しています。特につぶれにくい乳頭局所皮弁、傷の少ない乳頭・乳輪移植、リアルに見える医療用tattoo(タトゥー)に力を入れています。

一方、自家組織を希望する方については、私は主に“拡大広背筋皮弁法”による手術を行っています。一般的な広背筋皮弁法では、背中の筋肉を皮膚や皮下脂肪ごと胸側にもってきて乳房を作りますが、背中の筋肉や脂肪は量が限られているのであまり大きな乳房は作れません。また筋肉を使うため、作った乳房が縮みやすいという難点もあります。

これに対し拡大広背筋皮弁法は、腰の上部までしっかり脂肪をつけて組織を取りますので、ボリュームのある胸を作ることができるうえ、作った乳房の縮みも少なくおさえられます。背中から腰にかけての脂肪の量が多い人に向いた術式ではありますが、乳がんの全摘手術で胸の膨らみがなくなった人でも、背中の皮膚をうまく使うことで、エキスパンダーを使わず1回の手術でふくらみの再建を完了させることも可能です。

乳腺外科との連携でよりよい再建をめざしています

乳房再建を志したときから、私は医療者として患者さんたちのために何ができるかを、同じ女性としての視点から考えるようにしてきました。乳房をきれいに再建することはもちろんですが、残せた乳頭・乳輪の位置やドナーとなる腰や背中もできるだけきれいに保ちたいと願うのは女性なら当然のこと。服でカバーできるといっても、ブラジャーから乳輪がはみ出てしまうほど位置が変わってしまったり、腰のへこみ方が左右で異なったりしてしまうと違和感が残ります。そこで当病院では、乳頭・乳輪を残せる患者さんにおいては、乳がんの安全性を確認した上で腫瘍の摘出の仕方を工夫してもらい、また、拡大広背筋皮弁法で手術を行う患者さんについては、必要な組織を最適なボリュームで採取するため、事前に特殊な方法でCTスキャンを撮らせていただき、組織を無駄に取りすぎないよう計画を立てて手術に臨んでいます。

その際は乳腺外科の執刀医にもCT画像を分析してもらい、実際に乳がん手術を行うのと同じくらいの精度で患部の切除についての事前イメージを共有します。これは、乳腺外科と形成外科が連携して乳房再建手術に臨む体勢が整っているからこそできることで、がんの根治とよりよい乳房再建手術を行っていくために、両科の連携はこれからますます重要なものになっていくと思います。

連携という点では、当院では、乳腺外科医も再建の知識を持っているため、個人個人の乳がん治療に対して適切なタイミングで再建をアドバイスしています。温存術では明らかに変形が残るような場合には、形成外科に紹介となり全摘再建を選択しますし、安全に一次再建が可能な方はがんの診断時から形成外科を受診します。

逆に治療を集中的に行わなければならない方は「二次再建という方法がありますよ」とお伝えし、まず乳がん治療に専念していただきます。治療が落ち着いた段階で、安全な再建が可能な方について再度再建のお話を提案します。乳腺外科医が適切な時期に再建という方法があることをお伝えするほうが、患者さんたちもじっくりと目の前の乳がん治療に臨んでいただけるものと思います。

ご自分の希望や弊害となるものをすべて遠慮なく聞かせてください

乳房再建手術においては、整容性(見た目の美しさ)と患者さんの満足度の両方が満たされることがいちばんの理想です。ただ満足の基準は人によって異なり、必ずしも整容的な美しさとは一致しないのも現実です。それだけに、患者さんの声を聞くことは私たち医療者にとってもたいへん重要で、患者さんにはどんなことであれご自分の希望を余さず伝えていただきたいと思っています。

もし手術や入院の弊害となるものがあるときは、遠慮することなくすべて聞かせてください。仕事や育児、介護などのために何日も入院できないというときは、それを理由に再建をあきらめずにすむよう、私たちも一緒に方法を考えていきます。どんな小さな不安でも、それが解消するまで何度でもお話をさせていただきます。医療者である以前にひとりの人間として、ひとりの女性として、患者さんおひとりずつを尊敬し、大切に感じていくということが、私自身いちばん大切に思っていることなのです。
(取材:2018年2月 2023年7月更新 2024年2月更新)

名称 東京医科大学病院
所在地 〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1
診察時間 東京医大病院:毎週水曜日(午前)、東京医大八王子医療センター:第4木曜日、東京医大茨城医療センター:第3金曜日、ブレストサージャリークリニック:毎週火曜日 ※2018年2月現在の情報です。受診される際は病院にご確認ください。
休診日 日曜・祝日・第2・4土曜日
TEL 03-3342-6111(代表)
URL http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/keisei/gairai.html

このサイトは、医療に関するコンテンツを掲載しています。乳がんや乳房再建手術に関する各種情報や患者さん・医療関係者の談話なども含まれていますが、その内容がすべての方にあてはまるというわけではありません。 治療や手術の方針・方法などについては、主治医と十分に相談をしてください。

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