• 公開日2020.04.23
  • 最終更新日 2023.05.16

乳房再建医の声

遠い将来のことまで考えて再建に臨むより、まずは「いまのハッピーを」

棚倉 健太(たなくら けんた)
三井記念病院 形成外科科長・乳腺センター副センター長

術式:
 ・自家組織(穿通枝皮弁。ドナーは腹部、大腿部、腰部)※腰部からの症例はまれ
・インプラント
標準手術時間:
 ・自家組織 腹部 7~8時間、大腿部 5~6時間、腰部 8時間
・エキスパンダー挿入 1~2時間、インプラント入れ替え 1.5時間
標準入院日数:
 ・自家組織 腹部 5~7日、大腿部 5~7日、腰部7~10日
・エキスパンダー挿入 3~4日、インプラント入れ替え5~7日
乳頭・乳輪再建の時期:
 ・自家組織 再建手術の半年~1年後
・インプラント 再建手術の半年後
※ほとんどすべての術式に対応
連携病院:
 新宿西口耳鼻いんこう科・形成外科(脂肪注入、乳頭・乳輪の再建)
※診察は月1回。要予約

 

再建手術があるから、患者さんは乳がん手術を受け入れやすくなる

乳がん治療で根治をめざすには、まず外科手術が必要です。その結果、乳房の形がどうなってしまうかは患者さんの大きな懸念や心配となるものですが、乳房再建手術があることで、患者さんたちは乳がん切除手術を受け入れやすくなります。乳がん手術を前向きに考えられるようになるという意味で、乳房再建手術はまちがいなく乳がん治療の一環です。

インプラントのリコール問題もあって、順調に普及してきた乳房再建手術に歯止めがかかってしまったことはたいへん残念なことです。しかし何よりも重要なのは、全国どこに住んでいても、患者さんたちが自分に最適な方法で再建手術を受けられるということです。私たち乳房再建を手がける形成外科医には、そのための環境整備という大きな役割が与えられているのを日々痛感しています。

数年後にはいまより優れた術式が登場してくる世界です

三井記念病院では2020年3月に「乳腺センター」が発足し、以前にまして乳腺外科と形成外科との連携が緊密に行えるようになりました。

当科に来られる患者さんたちは、乳腺外科の主治医から乳房再建についての説明をすでに受けていることが多く、自分にどんな選択肢があるかをほとんどの方がご存知です。したがって形成外科では、一人ひとりの患者さんにより詳細かつ適切な説明を提供し、各人のライフスタイルとライフステージに合わせた再建方法を一緒に検討しながら、手術に臨んでいきます。

そのとき患者さんたちに話すのが、 “現時点でのハッピー”を考えてということです。あまりに遠い将来のことまで考えて悩む必要はありません。数年後には、いまより格段に優れた術式や治療法が登場してくるのが現代医学の世界です。いまからせいぜい10年先くらいまでの自分に何が必要か、どういう生活を送りたいかを想定して術式を考えることができれば十分。決して結論を急ぐ必要はありませんので、まずいまの自分がどうなりたいかというところから考えてみてください。

本人の希望と諸条件が揃うなら、困難な手術でも可能性を探りたい

残念ながら、再建に適さない状況の患者さんがいらっしゃるのも現実です。施設や医師によって判断の異なるところではありますが、私は患者さんが再建を強く望み、前向きな姿勢を持っているならば、条件的に困難であっても再建できる方法を可能な限り探っていきたいと考えます。最近も、かなり進行した乳がん患者さんの再建手術を手掛ける機会がありました。別の施設であれば再建という判断はなかったかもしれない症例でしたが、ご本人も積極的に物ごとに臨む方で、話し合いを重ねながら十分な理解と納得をいただき、無事に再建手術を終えることができました。

また、これもレアケースではあるのですが、エキスパンダー挿入中に局所再発が見つかり、再手術と化学療法が必要となった患者さんも強く印象に残る症例です。悪条件が重なり、一度は誰もが諦めかけたのですが、最終判断としてエキスパンダーを入れたまま再発部分を切除し、さらに化学療法が始まるまでのわずかな期間に再建手術を終了。乳腺外科も形成外科も、それぞれが自分にできる最大限のことを慎重に遂行することで挙げることのできた成果でした。この方は結婚が決まっており、放射線治療開始直前のタイミングでウェディングドレスを着て写真を撮影! 胸元が大きく開いたウェディングドレス姿の写真を見せてもらったときは、私も一瞬で涙腺が崩壊してしまって、ひとりの医師としてほんとうに嬉しい出来事でした。

もちろん、どんな患者さんにもこうしたことができるというわけではありません。でも少しでも条件が揃うようなら、治療に当たる全員で方法を考え、成果を追求することもときには“あり”なのでないかと考えます。乳腺センターの発足を機に、当院も人員の充実を図りつつ、患者さんに乳房再建のための幅広い選択肢を提供していけるよう、私も精力的に動いていきたいと思います。
(取材日:2020年3月17日)

 

名称 社会福祉法人 三井記念病院
所在地 〒101-8643 東京都千代田区神田和泉町1番地
診察時間 火曜日午後 ※2020年3月現在の情報です。受診される際は病院にご確認ください。
休診日 日曜・祝日、毎月第2土曜日
TEL 03-3862-9111(代表)
URL https://www.mitsuihosp.or.jp/division/department/plastic-surgery/

このサイトは、医療に関するコンテンツを掲載しています。乳がんや乳房再建手術に関する各種情報や患者さん・医療関係者の談話なども含まれていますが、その内容がすべての方にあてはまるというわけではありません。 治療や手術の方針・方法などについては、主治医と十分に相談をしてください。

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