全摘しても大丈夫! 自分自身に誇れる、美しい乳房を手に入れて
栃木県 HKさん(60代)
手術方式:「二次二期再建」
(右乳房全摘し、3か月後にエキスパンダー挿入。6か月後にインプラントに入れ替え、健側豊胸)
・乳がん手術
2007年6月 右乳房全摘手術
執刀 姫路赤十字病院 乳腺外科 石塚真示医師(当時)
・乳房再建手術
2007年9月 エキスパンダー挿入
2008年3月 インプラントに入れ替え(右)、健側豊胸(左)
2008年12月 腋下の組織を移植し、乳頭・乳輪再建
2009年1月 タトゥーで着色
執刀:メガクリニック 高柳 進医師
2020年3月 インプラント入れ替え(破損のため)
執刀 東京医科大学 形成外科 小宮貴子医師
術前治療:なし(トリプルネガティブ0期)
術後治療:なし
トリプルネガティブ0期。治療法はないと言われて・・・・・
ある日、右の乳頭から透明な分泌液が出ました。とくに気にはならず「肌荒れでもしているのかな」と思っていたんです。そのとき、たまたまピンクリボンのキャンペーンをやっていたので「ちゃんと検査しなくちゃ」と思い、病院を受診しました。
検査の結果、右胸にがんが見つかり、トリプルネガティブ(※注)0期でした。
当時、医師は「トリプルネガティブの0期だから、術後の治療法はありません」とおっしゃって、不安になったことを覚えています。
※トリプルネガティブ
エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2の3つが、腫瘍細胞に発現していない乳がんのこと。
当時イギリスにいた息子が帰国し、娘と3人で夕飯を食べながら、連日、家族会議を開きました。各自の部屋で就寝し、翌朝、食卓に集まると前日の夜に3人がネットで調べた情報を報告しあう。その繰り返しでした。
診察にも同席してくれ、私の代わりに先生に質問してくれました。
主治医がていねいに説明してくださったので、家族が納得して手術、治療にあたることができました。形成外科の医師からも家族全員で説明を受けました。家族の応援と主治医の先生方の真摯な姿勢は大きな支えとなりました。
私のがんは標準治療で温存の範囲内でしたが、全摘か温存か、2つの選択肢を提示されました。
「大阪に温存治療を得意とする医師がいるから、紹介しましょうか」とも言われました。でも主治医は「自分の妻や娘だったら、全摘にする」とおっしゃったんです。
「もしも皮膚の下1mm、2mmのところに、がん細胞が残っていたらと思うと、怖い」と。
そこまで一生懸命にお話をしてくださってほんとうにうれしく、この先生にすべておまかせして、全摘しようと決めました。
術後13年目。インプラントを入れ替え、さらにきれいな乳房に
2007年当時、乳房再建は一般的ではなくシリコンインプラントによる再建は保険適用ではなかったのですが、たまたま私が乳房再建で有名だった高柳進先生と知り合いだったこともあり、乳がんと診断結果が出ると同時に、温存療法と全摘後の乳房再建について相談させていただきました。「全摘でもちゃんと胸を作ってあげるから、安心して手術を受けてきてください」と励ましていただき、『全摘で乳房を失っても再建していただける』と安心して手術室にむかうことができました。全摘という喪失感を持ってむかうのとは全然違いました。
病院は違いましたが、乳腺外科と形成外科の先生とで連絡をとりあい、うまく連携してくださいました。2008年3月、右胸にインプラントを入れる際、右胸と高さを合わせるために左胸を豊胸しました。
再建をしてから、とくに痛みもなく過ごしていたのですが、2019年に不具合を感じて検診に行ったところ高柳先生に「10年に一度は、インプラントを入れ替えたほうがいい」と言われました。
ちょうどその頃に、私の胸に入っているアラガン社のシリコンインプラントがリコールとなり、BIA-ALCL(※注)のこともあったため入れ替えることを決めました。
※BIA-ALCLについて(リンク)
https://www.e-bec.com/implant-recall
その後、栃木県に転居したため改めて病院を探しました。
インプラントの入れ替えでお世話になったのは、東京医科大学の小宮貴子先生です。小宮先生に「インプラントの端が、破損している」と言われ、13年もたつと、いろいろと不具合が出てくるんだなと思いました。
また、右胸に脂肪の塊もありました。
2019年12月に検査を受け、2020年3月にインプラント(アラガン社の新たに保険適用になったインスパイラ)を入れ替えました。
いまのインプラントは、最初に入れたものと着け心地は変わりません。かたちは、前よりよくなったと思います。アンバランスになっていたのを整えてくださいました。全摘側は表皮が薄いので、どんなインプラントを入れても境目に段差が出てしまうのですが、私自身はそんなに気になりません。
先生は、「折を見て、ご希望があれば脂肪を入れます」と言ってくださいましたが、とくに不具合はないので入れていません。
たとえ全摘しても「自分にとって最高の胸を作ってもらえるから大丈夫!」
と伝えたい
乳房を再建してくださった高柳先生がおっしゃっていた言葉が、いまでも心に残っています。
「失われたものを、できるかぎり元に戻すことが医療なんだよ」
先生は「耳を失った人には耳をつくってあげるでしょ? 唇も鼻もそうでしょ。乳房も同じだよ」と。乳がんの手術をし乳房を失った状態というのは、医療の途中なんだと。
乳房再建について、美容整形のようなイメージを持たれる方もいます。しかし、医師の口から「医療の途中だ」という言葉を聞け、とてもうれしかったです。
乳房を摘出することで、たとえば身体がアンバランスになるといった不具合もあります。女性にも「乳房再建までが乳がん治療」と思ってほしいと思います。
以前、姫路赤十字病院に「乳房再建をするかどうか迷われている方に、再建した乳房を見せてあげてほしい」と言われ、行ったことがあったのですが当事者のみなさんに、とても喜んでいただきました。
女性は、もし乳がんになったら「乳房を温存したい」と考えると思うんです。でも、もし先生が全摘をすすめたとしても「大丈夫だよ」と言ってあげたい。私みたいに全摘しても、ステキな胸を作ってもらえるから大丈夫だよって。
私は、コロナの前はヨガに通っていたんですけど「今度、インプラントを入れ替えるのよ。ボインになるから見せてあげる」って言ったら、みんなが拍手してくれました(笑)。
いまは、まったく不具合もなく過ごしています。乳がん検診に行っても、看護師さんに「あれ? あれ?」って言われるほど傷も目立ちません。
自分自身に誇れる乳房を作っていただいて心から「乳房再建してよかった」と思っています。
*インタビュー記事は個人の体験談に基づく感想で、E-BeCで推奨するものではありません。体験談は再建を考える際の参考にしていただき、主治医や医療者とよく相談をして決めるようにしてください。
(オンライン取材:2020年8月)