【緊急のお知らせ】

アラガン社製ブレスト・インプラントとティッシュエキスパンダーの
販売停止と自主回収について

 

去る7月24日、医薬品/医療機器メーカーのアラガン社(本社・アイルランド)の日本法人アラガン・ジャパン㈱が、同社が取り扱うテクスチャ―ドタイプの乳房再建用ティッシュエキスパンダーおよびブレスト・インプラントについて販売を停止するとともに、これら製品の自主回収を行うことを発表しました。

この措置は、アラガン社の製品のうち、表面がざらざらしたテクスチャードタイプのインプラントを使用した人に、“ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)”という稀な合併症の発症があったことを受け、米国FDA(アメリカ食品医薬品局)が同社に当該製品の自主回収を求めたことによるもので、同社は世界中の市場からの製品回収を決定しています。

わが国では、乳房再建において保険が適用されるエキスパンダーとインプラントが同社製品のみであることに加え、手術から何年も経ってからの発症例が報告されていることから、再建予定の方からすでに再建を終えた方まで、多くの患者さんに混乱と不安が広がっています。

今回の措置についてどのようにとらえ、また対応していけばよいか、『乳房再建手術Hand Book』(E-BeC制作・発行)の監修者で、埼玉医科大学総合医療センター 形成外科・美容外科教授の三鍋俊春先生にお話をうかがいました。

 


◎インプラントで再建している人は定期的な診察を

 

-“ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(以下BIA-ALCL)”とはどういうものなのでしょうか。

ブレスト・インプラントを挿入したことに起因するリンパ腫のひとつです。今回、アラガン社の製品のうち、表面がざらざらに加工されたテクスチャードタイプと呼ばれるインプラント(写真左の2点)が販売停止および自主回収の対象となりました。その理由は、このタイプの使用例でBIA-ALCLの発症が報告されているためで、同じくざらざらの性状をもつ乳房再建用のティッシュエキスパンダーについても同様の措置が取られました。

ただしBIA-ALCLの発症率はたいへん低く、また進行速度も遅いのが特徴で、適切な外科的処置を受けることで治癒します。しかしこれまで世界で573例が見つかり、うち33名が死亡していること。そのうち製造業者が特定された13例中、12例がアラガン社のテクスチャードタイプのインプラントを使っていたことから、今回の措置が取られました。なぜアラガン社のこのタイプの製品に発症が多いのか、その理由はよくわかっていません。

死亡33例の多くは発症に気づくのが遅れ、ただちに適切な措置を受けられなかったことによるものです。ちなみに日本でも発症例が1件報告されていますが、この患者さんは適切な治療を受けて治癒しておられます。

 

ーBIA-ALCLには何らかの自覚症状はありますか。

現れてくる兆候は、インプラントの周囲に液体がたまり、乳房が大きく腫れてくることです。しこりや痛みを伴うこともあります。発症に至るまでの期間は平均9年と発表されていますが、実際には数カ月から20数年と開きがあり、個人差があります。したがって、インプラントによる乳房再建を受けている方は、自覚症状の有無に関係なく、年に1回程度の定期的な診察と、2年に1回程度の画像診断(MRIや超音波検査など)を欠かさずに受ければ、不安なく日常生活を送っていただけます。

BIA-ALCLの発症は白人に多く、人種的に日本人の発症リスクは相対的に低いとみられます。日本人は総じて皮下脂肪が薄く、体型も華奢なので、発症があっても触診や画像診断で容易に診断がつきます。発症が認められた場合は、インプラントを抜去し、インプラントの周囲に生じる皮膜を切除する外科的な治療を施します。

なお、インプラントの挿入から間もない時期に液体(リンパ液)がたまるのは、異物に対する正常な生体反応で、BIA-ALCLとは関係ありません。インプラントによる“被膜拘縮”も、BIA-ALCLとは無関係です。

 

◎すでに入っているインプラントやエキスパンダーはそのままで大丈夫

 

―BIA-ALCLの予防のために、過去に入れたインプラントを抜いたほうがいいのでしょうか。

そもそも発症リスクの低い病気ですので、現在症状のない患者さんについては、BIA-ALCL発症の予防としてインプラントを取り除く必要はありません。どうしても強く希望される場合は、外科手術によって抜去することはできますが、治療ではなくあくまで予防的処置なので、保険適応とはならない可能性が高いと思われます。

 

―現在ティッシュエキスパンダーを入れている人は、どのようなことに気をつければよいでしょうか。

エキスパンダー挿入に起因するBIA-ALCLの発症については、いまのところ報告はありません。エキスパンダーへの注水を問題なく続けておられる方は、インプラントに入れ替えるときまでそのまま留置しておいて問題はありません。

入れ替えるインプラントについては、最も多く使われてきたテクスチャードタイプのインプラントが回収対象となったため、今後は同じく保険適用対象の製品で、表面がつるつるしたスムースタイプのラウンド型のインプラントを使っていくことになると思われます。(写真右)

ただ今回の措置が突然に取られたことで、スムースタイプの在庫が一時的に枯渇する可能性はあります。関係学会などでも、安定供給が確保されるようさまざまに働きかけていきますが、もし一時的にインプラントの供給が不足し、入れ替え手術の予定が後ろにずれ込むようなことになっても、エキスパンダーを長く留置することによる弊害は特にありませんので心配はいりません。

 

◎最新の情報をこまめに収集するようにしてください

 

―使用できるインプラントやエキスパンダーが限定されてしまうことは、これから乳房再建をしたいと考えている人にどのように影響してくるでしょうか。 

まずインプラントについては、今回の措置により、アラガン社のスムースタイプのラウンド型のインプラントだけが保険適用の対象となります。そこで1点気をつけていただきたいのが、スムースタイプのインプラントは、テクスチャードタイプに比べて“被膜拘縮”が起こりやすく、放置するとインプラントの破損や内容ジェルが漏れ出すことがあるとされる点です。

被膜拘縮とは、体内に入った人工物への防衛反応として、インプラントの周囲に形成された皮膜が硬く締まり、再建乳房の変形や強い痛みが生じることです。これを予防するためには再建乳房のマッサージが勧められていますので、詳しい方法については主治医の指示を仰いでいただければと思います。

ただ、日本人の胸の形やボリュームに照らしてみると、むしろこのタイプのインプラントのほうが日本人の乳房再建に向いているという形成外科医は少なくありません。使えるインプラントが限定されることで、今後はきれいな再建が望めなくなるということはないので安心してください。

 

ーティッシュエキスパンダーについてはどうでしょうか。

これまで広く使われてきたアラガン社製の乳房再建用エキスパンダーが使用できなくなります。したがって今後は、乳房再建以外の用途でも広く使われている、別メーカー(PMTや高研など)のエキスパンダーを使用していくことになるでしょう。これらのエキスパンダーも保険適用の対象です。

また自家組織による再建についても、ティッシュエキスパンダーで胸の皮膚を伸ばす場合は、今後は別メーカーのエキスパンダーを用いていくことになると思われます。

 

―今後、乳房再建に使えるインプラントやエキスパンダーの種類を増やしていくために、他メーカーの製品に保険の承認を与えていくなどの可能性はあるでしょうか。 

今回の措置は全世界的に行われており、当該製品を販売禁止とした国もあるほどなので、この流れを元に戻すことはたいへん難しいと思われますが、患者さんたちに及ぶ影響を最小限にとどめるためにも、これからさまざまな対応が図られる必要があると思っています。

現時点では具体的にお知らせできるような動きはありませんが、関連学会でも関係省庁やメーカー各社などと緊密に連絡を取り合い、事態の改善を図りつつあります。各学会のウェブサイトなどにも、最新の動きが随時アップされていくと思われますので、こまめにチェックしてみてください。

いずれにしても、BIA-ALCLの発症はごくまれなことであり、また人種的にも日本人の発症率はたいへん低いことなどを考え合わせると、患者さんが過度に心配する必要はありません。そして繰り返しになりますが、インプラントで再建手術を受けている方は、必ず定期的な診察を受けることを心がけていただきたいと思います。
(取材:2019年8月1日)

 

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