• 公開日2021.01.26
  • 最終更新日 2024.01.17

乳房再建手術経験者の声

米国と日本。自らの希望を追い求めた乳房再建とその長い道のり

東京都 SMさん(50代)


手術方式
:一次二期再建(インプラント)、その後腹部自家組織で再々建

・乳がん手術
2014年4月 左乳房全摘手術
(左乳房全摘と同時にエキスパンダー挿入、翌年インプラントに入れ替え)
執刀:米国・Memorial Sloan Kettering Cancer Center  Dr. Kimberly J. Van Zee
・乳房再建手術
2014年4月 エキスパンダー挿入
2015年7月 インプラントで再建手術
米国・Memorial Sloan Kettering Cancer Center
2019年3月 腹部自家組織(穿通枝皮弁法)で再々建手術
執刀:横浜市立大学附属市民総合医療センター 形成外科 佐武利彦医師(当時
・乳頭乳輪
2020年2月 乳頭:皮弁の立ち上げ
乳輪:そけい部皮膚移植
2020年9月 乳輪:タトゥーで着色
執刀:富山大学附属病院 形成再建外科・美容外科 佐武利彦医師

術前治療:なし
術後治療:抗がん剤治療(パクリタキセル・術後4ヶ月間)
放射線治療(術後半年後に5週間)
ホルモン治療(タモキシフェン・2020年時点でも継続中)

 

20代の頃からグラフィックデザイナーとして米国で仕事をしてきました。
乳がん宣告を受けたのは、ニューヨークで米国人の夫と幼い息子と3人で暮らしていた時のこと。そのとき私が望んだのは、まず乳がんをしっかり根治させ、自家組織で乳房を再建し、日本に帰国するときには一人息子と一緒に温泉に入ること。

このとてもシンプルな望みを叶える道のりは、結果的にとても長く、遠いものになりました。その後、私は5年にわたり米国と日本の多くの医師のもとへと奔走することに。

2つの国で体験した乳房再建と、そこから私自身が感じたことや思ったことが、どなたかのお役に立てばと思い振り返ってみます。

再建手術の麻酔から目がさめた私が目にしたものは・・・・

息子が生まれて間もない2012年頃から左乳首がひっぱられるような感覚はありましたが、まさかがんであるとは思わず、授乳の影響かな、としばらく放置していました。2014年のはじめに受けた検査でがんと診断され、その後セカンドオピニオン、サードオピニオンまで確認しましたが、いずれも乳輪のすぐ裏にできたホルモン性のがんで、すでにリンパ節に転移しているとの見立て。
2014年4月に、がん治療で有名なMemorial Sloan Kettering Cancer Centerに入院し、乳腺外科Dr. Van Zeeの執刀で左乳房の全摘出と腋窩リンパ節を郭清、さらに再建を担当する形成外科医によるエキスパンダー挿入を同時に行いました。

自家組織での再建を希望したのは、日本語での医療情報が限られるなか、人工物に抵抗があったことと将来的に入れ替える必要がないことに魅力を感じたからです。Dr. Van Zeeはもちろんのこと、形成外科医にも自家組織で再建したいという希望をはっきりと伝えていました。その後、抗がん剤治療、放射線治療、ホルモン治療と、フルコースでの治療に耐え、乳がん手術から1年余り経過してようやく迎えた再建手術の日。麻酔から目ざめて私が最初に目にしたものは、手術室に入ってからたった2時間しか経過していないことを示す壁時計でした。
自家組織での再建手術は7時間前後かかるとの説明を受けていたことを咄嗟に思い出し、「お腹を切らなかったんだ。インプラントになっちゃったんだ…。」とベッドの上で号泣しました。

一般的に日本人は米国人に比べて血管が細く、さらに術後の放射線治療などで乳房の血管や皮膚にダメージがある場合は、自家組織との血管吻合が技量的に難しい場合がある――「状況次第で術中に急きょインプラントに切り替えるかもしれない」と、担当の形成外科医から事前に示唆されていました。
しかし、望まない術式で再建された左胸は気持ちの上で受け入れ難く、時々左胸にキューッと締め付けられるような痛みを感じたり、左腕が上がりにくくなるなどの症状が見られたこともあり不安が募りました。
ネクストステップとして乳頭乳輪の再建について相談すると、形成外科医は「放射線治療の影響で皮膚表面が縮んでしまったから、無理」とだけ告げました。その事実を受け入れられず激しくショックを受ける私に、形成外科医は追い討ちをかけるように「でもブラジャーをして服を着てしまえばわからないから」と言い放ちました。その時、私の中で気持ちの糸がプツンと切れてしまったのです。

NYで医師を訪ね歩く日々・・・・。そして日本での再チャレンジ

しばらくは失意の底にいましたが、どうしても希望を諦めきれなかった私は、自家組織への入れ替えと乳頭乳輪の再建を求めて、翌2016年からドクター探しを始めました。行き着いたのはニューヨークの別の病院で、日本人の母親を持つという形成外科医。
ドナーである腹部組織と乳房をつなぐ血管が細くなっている状況も理解した上で、インプラントからの再々建や乳頭乳輪の形成に前向きな回答が得られ、「ようやく理解者が現れた…!」と、心から救われる思いをしました。
しかし、再々建を決心した矢先、急にそのドクターと連絡が取れなくなってしまったのです。病院に問い合わせても「新しい勤務先に転職した」こと以外教えてもらえず、途方に暮れました。開きかけた扉がまたもや目の前で閉じてしまい、米国では2度にわたりドクターに裏切られた気持ちに。

ちょうどその頃日本で暮らす実父が病気になり、2017年夏に見舞いを兼ねて1ヶ月間帰国することになりました。
知人の勧めもあり、日本滞在中に複数の形成外科医の診断を受けたところ、それぞれの医師がそれぞれの立場や得意なスタイルで自家組織での再々建を勧めてくださいました。結果的に当時横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科の佐武先生に手術をお願いすることになりましたが、実はその決め手は「絵がとてもお上手」だったこと。私が理想とする胸の形を美しくイラストで示してくださり、ぜひお任せしたいという気持ちになりました。そこは私のデザイナーとしてのこだわりかもしれません(笑)。
その後、2018年4月に家族とともに日本に移住することになり、2019年3月にお腹をドナーにした穿通枝皮弁での乳房再々建が実現。その後、2020年にようやく乳頭乳輪手術が完了し、5年越しで自分の納得のいく方式で乳房を再建することができたのです。

乳房再建は人生を豊かに生きるためのもの

米国と日本。医療システムの異なる2つの国で乳房再建を行ったことは、今思えば貴重な経験でした。形成外科医のこだわりや手先の器用さ、繊細さにおいては、日本に軍配が上がります。入院生活も日本の方がずっと快適ですね。米国では、入院中、処置のために夜中に叩き起こされたり、リハビリへの圧が強かったり、「もしかすると病人扱いされていないかも…?」と思うことがしばしばありましたから…(笑)。
一方で米国の病院では、ドクターやナースがハロウィンの仮装をしたり、何かと気分が塞ぎがちな患者をジョークで笑わせてくれたり、心を寄せ合って温かく言葉を交わしたことを、とても懐かしく思い出します。

自分が乳がんになったことは“特別に選ばれた結果”と捉えるようにしています。他の患者さんとの交流や、自らの体験をシェアする機会など、自分の新たな居場所や役割も見つけることができましたし。

希望どおりの乳房を再建するまでは時間も手間もお金もかかりましたが、自分の希望を最後まで貫くことができたことに安堵しています。今後、乳房再建を目指す方には、“自分の希望”を明確に持つことが大切だとお伝えしたいですね。再建する乳房は元どおりの乳房ではないのです。その事実をまずは受け入れ、その上で自分が何を目指すのか。そして目指す理想を追い求めながらも、現実との間でどう折り合いをつけるのかが、最終的な満足度に繋がると思います。日本は治療レベルが高く、恵まれた環境にあるぶん、自分の意思をしっかり持つことが大切だと感じます。

時々「乳房再建を優先して乳がんの治療方針を決める」と言う話を耳にしますが、それでは本末転倒ではないでしょうか。
私には、幼い子供を残して乳がんで命を落とした友人もいますので、乳がんを完治させることが何よりも大事…“命あっての再建”だと強く思います。与えられた残りの人生を豊かに生きることが乳房再建の目的であることを、決して忘れてはいけないと思います。

*インタビュー記事は個人の体験談に基づく感想で、E-BeCで推奨するものではありません。体験談は再建を考える際の参考にしていただき、主治医や医療者とよく相談をして決めるようにしてください。

(2020年12月 オンライン取材)

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