全摘を選択。悲しみを受け止め、しっかり泣くと、次に進める気がした
*2024年10月発行 写真集『New Born -乳房再建の女神たち-』(撮影:蜷川実花、企画:NPO法人E-BeC、発行:赤々舎)に収録しているモデルの経験談「わたしのストーリー」より
熊本県 UMさん(46歳)
手術方式:一次二期再建(インプラント)
・乳がん手術
2022年4月 左乳頭乳輪皮膚温存乳房切除術+エキスパンダー
執刀:乳がん:熊本大学病院 乳腺・内分泌外科 稲尾 瞳子先生(当時)
エキスパンダー挿入:熊本大学病院 形成外科 西村 祐紀先生(当時)
・再建手術
2022年11月 インプラントに入れ替え(左)
執刀:熊本大学病院 形成外科 西村 祐紀先生(当時)
・乳がん治療
術前治療:なし
術後治療:タモキシフェン→リュープリン・アリミデックス(5年)
「今年も元気に頑張ろう」という、からだの車検感覚で毎年1月に人間ドックを受けていて、2022年のドックの乳がん検診で要精密検査の通知が届きました。乳がん経験者で元気な方々を知っていたので、「あ、ついに来たんだな」と、その時点で覚悟はできていたように思います。
検査の結果乳がんと診断されたとき、闘病の末、亡くなった主人の兄の頑張る姿を思い出しました。早期がんの私が死ぬわけにはいかない。今は頑張るときなんだと、前向きな気持ちで受け止めました。再発リスクはそれなりにあると聞き、悪いものはすべて取ってしまおうと、全摘を選択しました。再建は、やせ型のため自家組織再建が難しいことと、インプラントに対して「つくりもの」というイメージがあったので、しなくていいと考えていました。
その話を上司にしたところ、「え、なんで? 白内障の水晶体をレンズに交換するのも、ひざ関節の変形を人工関節に置き換えるのもインプラント再建じゃない。病気で失ったものをインプラントで取り戻すことは、乳房も同じじゃない」と言われ、ハッとしました。偏った考えを持っていたことに気づくと、インプラントへの抵抗感は見事に消え、再建を決めました。
乳頭乳輪を残して全摘し、エキスパンダーを入れる手術は無事に終わりました。ただそのあと自分でも驚くほど大きな喪失感が襲ってきたんです。「やっぱりなくなってしまったんだ」。胸を見て女性としての劣等感のような気持ちがふつふつと湧き、悲しみにくれました。
私は人より早く乳房が発達し、小学生のころからブラを外さないで寝るほど胸への愛着があったのだと思います。一方で大切な胸は失ったけれど、乳がんから再建に至るまでの紆余曲折を、その都度周りの人に支えてられてきたこの経験を、「悲しい経験」にだけはしたくなかった。
私は医療職ですが、職場では「乳がんや乳房再建した人が働きやすい環境をつくる、ロールモデルになればいい」としっかりサポートを受けました。友人たちは私を外へ連れ出してくれ、夫はリモート勤務を増やしてそばにいてくれました。悲しみを受け止め、しっかり泣くと、次に進める気がしました。
エキスパンダーへ生理食塩水を注入すると、背中が圧迫されて辛かったけれど、徐々にふくらんでいく胸は心の支えでした。ホルモン療法で吐き気が続きやせてしまったら、右乳房がしぼんでしまうという想定外のこともおこりましたが、インプラントへ入れ替えて完成した胸は、多くの愛情を受けた特別なものになりました。今、右胸にとって再建した胸は一番のライバル。右胸がこれ以上垂れないように毎日ケアしています。
私の経験に何か意味を持たせたいと考えていたところ、SNSのサイトで、同じ病気の人を勇気づけるための写真集のことを知り、撮影日が私の46歳の誕生日というご縁に背中を押され、この場に立つことができました。
2024年5月 インタビュー:山崎多賀子
*インタビュー記事は個人の体験談に基づく感想で、E-BeCで推奨するものではありません。体験談は再建を考える際の参考にしていただき、主治医や医療者とよく相談をして決めるようにしてください。
写真集『New Born -乳房再建の女神たち-』のメイキング動画はこちらから
https://www.e-bec.com/ninagawa-mika-model
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