真に患者さんのQOLを考えた乳房再建は今後の大きなテーマ 島田賢一医師
島田 賢一(しまだ けんいち) 金沢医科大学 形成外科教授
術式 :
・自家組織 (主に穿通枝皮弁、広背筋皮弁)
・シリコンインプラント
連携病院 : 八尾総合病院(富山県八尾市=手術のみ)
女性クリニックWe~TOYAMA(富山市)、富山日赤病院
標準手術時間 :
・穿通枝皮弁 8時間、広背筋皮弁 5時間
・エキスパンダー挿入 1~1.5時間
・インプラントへの入れ替え 1.5~3時間
標準入院日数 :
・穿通枝皮弁 3週間弱、広背筋皮弁 10日~2週間
・エキスパンダー挿入/インプラント入れ替え 1週間
乳頭・乳輪形成 : 実施は再建手術の半年後以降が目安
※乳頭は耳介軟骨の移植、乳輪は鼠径部からの皮膚移植など
北陸3県でも乳房再建手術を行う体制が整ってきました
北陸の中核都市とはいえ、大都市に比べると金沢の地域性はまだまだ保守的で、病気のことをオープンに語りたがらない人や、乳房再建手術のことなどまったく知らないという患者さんも少なくありません。
しかし検診の広がりを受けて乳がん患者さんは増大しており、それに伴って乳房再建を希望する方は北陸でも増えています。若い人はもちろん、以前なら再建を考えることのなかった高齢者層にも希望者は増えていて、最高齢では70代半ばの方の再建を手がけたこともあります。乳房再建手術を行う医療施設は福井や富山にも拡大しつつあり、再建を望む患者さんたちを受け入れる体制が北陸でもずいぶん整ってきました。
ただ土地がらを反映してか、「家族に相談しても反対されそう」「夫にやめておけと言われた」といった声にもよく接します。そうした患者さんには、再建は家族に相談して決めることではなく、まして乳房を失う気持ちが男性にわかるわけではないのだからと、自分の意思にしたがって決めるようお話しすることもあります。
地方の中核病院は、術式の基本ラインナップの充実がまず重要
反対に、インターネットなどで豊富に情報を集め、最初から「穿通枝皮弁で」などと希望の術式を指定してくる方もおられ、乳房再建に対する患者さんの姿勢や知識量は実に多様化しています。ただ自力で勉強されるのは良いことですが、あれもこれもと片っ端から情報を集めるのではなく、ウェブサイトを見るなら実績や症例経験の豊富な病院のものに絞るようお勧めしています。個人のブログなどはあくまで投稿者の感じたことで、バイアスがかかっていたり、正確性を欠いていたりすることも多いからです。
こうしたなかで、地方都市の中核病院で乳房再建手術を手がける立場として何より重視しているのが、基本的な術式のラインナップをできるだけ揃えておくということです。東京近郊であれば、特定の術式に実績のある医師も大勢おられ、患者さんも納得がいくまで各所でセカンドオピニオンを受けることもできるでしょう。患者さんの選択肢が限られている地方都市では、中核となる病院が人工物から自家組織まで可能な限り豊富なメニューを揃えて提供し、患者さんに選んでもらえる体制を整えることがひとつの使命だと考えています。
乳房再建におけるQOLの考え方はこれからもっと変わっていくはず
また、昨今の形成外科学会において重要な論点となりつつある、本当に美しい再建乳房とはどういうものかという観点からの取り組みも、これからに向けての大きなテーマだと感じています。われわれ形成外科医は、乳頭の位置など正面からみた形の美しさをまず重視しますが、患者さんたちは乳頭位置の左右バランスよりも、上から胸元をのぞいたときのデコルテラインのほうが気になったり、下着を身につけたときのマッチ感のほうを重視していたりすることがあります。こうした点は今後もっと配慮されるべきことで、たとえばブラジャーの構造と再建乳房の関係をはじめ、より満足度の高い再建のあり方についてもっと検討が進んでいくものと思います。
診療分野を問わず、患者さん個々人の生活状況や価値観に対して、医療の側から歩み寄っていく“オーダーメイド医療”の時代を迎えていますが、乳房再建はその考え方が最も顕著に現れるべき領域のひとつです。乳房再建におけるQOL(生活の質)は、従来以上にもっとトータルに考えられていくべきだと思いますし、私自身も、これまで論じられてこなかった部分に注目しながらいっそうの研鑽を続けていきたい考えです。
(取材:2015年10月)
名称 | 金沢医科大学病院 形成外科 | ||
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所在地 | 〒920-0293 石川県河北郡内灘町大学1-1 | ||
診察時間 | 木曜日午前、女性クリニックWe~TOYAMAは第2土曜日午前(いずれも要予約)※2015年10月現在の情報です。受診される際は病院にご確認ください。 | ||
休診日 | 土曜午後・日曜・祝日、年末年始、大学開学記念日(6/1)、旧盆(8/15) | ||
TEL | 076-286-3511(代表) | ||
URL | http://www.kanazawa-med.ac.jp/~hospital/ |