多くの先輩に支えていただいたように、自分の再建経験を語っていきます
千葉県 EMさん(46歳)
手術方式 : 「一次ニ期再建」
(乳がん手術時にエキスパンダーを挿入し、約2年半後に自家組織で再建)
・乳がん手術 : 2010年10月 乳輪乳頭温存皮下乳腺全摘。同時にティッシュ
エキスパンダーを挿入
執刀・東京大学医学部附属病院
・乳房再建手術 : 2013年3月 自家組織(穿通枝皮弁。ドナー=左臀部)による再建
執刀・横浜市立大学附属市民総合医療センター 形成外科 佐武利彦医師
術前治療 : 抗がん剤(AC、タキソール半年間)
術後治療 : 分子標的薬(ハーセプチン1年間) ホルモン療法継続中
胸を失う恐怖心から“同時再建”を希望しましたが…
39歳の冬、左胸にしこりを感じ、職場の定期検診を繰り上げて受けたマンモグラフィ検査で1.5cmの乳がんがみつかりました。
告知を受けた当初から、私には同時再建への強いこだわりがありました。乳房を失ったら、夫から女性としてみてもらえなくなるのでは…という怖れのような気持ちがあったのです。そんなとき書店で出会ったのが、のちに形成外科の主治医となる佐武利彦先生の『乳がんを美しく治す』という本でした。術例写真はどれも美しくて、必ずきれいに治せるという一筋の光をみる思いでした。
同じころ、父方の2人のおばが乳がん経験者であると知らされました。まずはしっかり乳がん治療と向き合おうと決意。乳房再建の情報を集める時間もほしかったので、術前抗がん剤治療を自ら希望しました。治療中の半年間、会社勤めも普通に続けながら、乳房再建の講演会に足繁く通い、他病院の形成外科も受診してみるなど、副作用に耐えつつ我ながらよく動いたものだと思います。
「どの病院でどんな方法で手術を受けるかはあなたが決めていい」
半年が経ち、乳がん手術を迎えるころには、「いずれは自家組織で再建したいので、乳腺摘出と同時にティッシュエキスパンダーを入れたい」「がんの影響がなければ、皮膚と乳頭乳輪は残したい」という明確な希望を固めていました。手術前日のカンファレンスには私も同席させていただき、注文の多い患者であるにもかかわらず、お医者様たちがみな真剣に臨んでくださったのは本当に有り難いことでした。半年間の情報収集の成果だったと思います。
ところが、エキスパンダーに徐々に水を入れて膨らませる段階になり、思わぬ事態が発生。エキスパンダーの挿入位置が低く、注水するほど乳頭の位置が上の方にずれてきたのです。
そうこうしているうちに被膜拘縮(※注)が起こり、エキスパンダーを抜いて最初からやり直すしかないのかと絶望的な思いを抱えて数ヵ月。転院も頭をよぎりましたが、切り出せないまま悶々としていた気持ちを打ち破ってくれたのが、ある再建経験者の方の一言でした。「悩んでいても始まらない。別の形成外科を訪ねてみたら?」という言葉にふっと気持が軽くなり、佐武先生のもとを訪ねる決心がつきました。
診察されるなり、佐武先生は「乳頭の位置はもとに戻せる」とおっしゃってくださいました。妊娠の可能性を考慮して、お腹以外で胸の感触に近いお尻の上部をドナーとする方法を提案され、さらに私の迷いを見透かすかのように、「どの病院で、どんな方法で手術を受けるかは、あなた自身が決めてよいことなんですよ」とおっしゃいました。もう迷うことなどありません。手術まで1年8ヵ月の待ち時間がありましたが、その間も講演会などでたくさんの再建経験者とお目にかかり、何の不安もなく、わくわくする気持ちで手術を待つことができました。
美しい胸と対面した瞬間、辛いことがすべて吹き飛びました
手術後、初めて自分の胸をみたときのことは、いまでも忘れることができません。
48時間の絶対安静から離床できた日、ひとり病室の鏡の前でそっとパジャマの前を開くと、そこには美しく揃った両胸が…。大きく息を呑んだ次の瞬間、私はわっと泣き出していました。2年近い辛さも傷の痛みも、すべてがきれいに吹き飛んでしまいました。
退院から1週間で職場に復帰。その2週間後には、いつも応援してくださった再建サロンを訪れ、テープだらけの胸と、ドナーのお尻を皆さんにお見せしながら、興奮しつつ体験談を語る私がいました。
まだまだ情報のなかったあの当時に比べ、いまは誰でも望むときに再建できるようになりました。でも、再建をするかしないか、術式はどうするか、いつどこで手術をするか…決めるのは自分自身です。悩ましく苦しい選択になることもあるでしょう。だからこそ私は、自分がそうしていただいたように、再建について迷い、悩む方たちの背中を少しでも押して差し上げられるように、自分の体験を話し続けていきたいと思っています。
(取材2016年9月)
*インタビュー記事は個人の体験談に基づく感想で、E-BeCで推奨するものではありません。体験談は再建を考える際の参考にしていただき、主治医や医療者とよく相談をして決めるようにしてください。
※注【被膜拘縮】 体内に入った異物に対する免疫反応で、エキスパンダーやインプラントの周囲に薄い膜が生じ、硬く締まって痛みを生じる合併症。現在は、被膜拘縮を起こしにくいタイプのエキスパンダーやインプラントが主に使用されています。