いまでは乳がんになったことに感謝したいくらいの気持ちです
岐阜県 FMさん(68歳)
手術方式 : 「二次二期再建」
(全摘手術の3年後にエキスパンダーを挿入。自家組織で再建)
・乳がん手術 : 2008年4月 左乳房全摘
執刀・岐北厚生病院 乳腺外科 石原和浩医師
・乳房再建手術 : 2011年8月 ティッシュエキスパンダー挿入
2012年2月 自家組織(穿通枝皮弁。ドナー=腹部)による再建
2012年6月 乳頭・乳輪の再建(健側からの移植による)
執刀・木沢記念病院 形成外科 高木美香子医師
術前治療 : 抗がん剤 EC療法 4回
術後治療 : 抗がん剤 ドセタキセル 4回
分子標的薬 ハーセプチン 1年間
胸を失って過ごした3年間の辛さを越えて
乳がんだと知らされたとき、あれほど自分の馬鹿さ加減を恥じたことはありませんでした。毎年会社の定期検診を受けていたのに、「自分ががんになるはずはない」と勝手に決めつけ、マンモグラフィ検査だけ受けていなかったのです。TVでもあんなに啓発しているのに自己触診をしたこともなく、偶然触ってしこりに気づいたとき、左乳頭下の腫瘍はなんと4cmもの大きさになっていました。すでにリンパ節にも転移しており、医師の勧めに従って3カ月間の術前抗がん剤治療のあと、左乳房の全摘手術を受けました。
乳がん告知から間もなく、乳房再建手術の存在を知りました。ぜひ同時再建をと希望する私に、主治医は「腫瘍が大きく、リンパ節転移もあるから」と、3年待ってみて転移や再発が認められなかったら、いつでも好きなときに再建手術を受けていいと言ってくださいました。
術前・術後にわたる抗がん剤治療は辛く苦しいものでしたが、医師の説明をしっかり聞き、納得のうえで治療に臨んだ甲斐あって大きな効果を得ることができたのは有り難いことでした。とはいうものの、デコルテの自然な膨らみがないため、胸元の開いた服を着ることができず、上から覗かれそうなのがいやで、電車に乗っても座席に腰を掛けることができません。片方の胸を失ったまま過ごす3年間は、女性としてはやはり辛いものでした。
最高のタイミングで再建手術を受けることができました
3年が経ち、転移・再発はないとわかったころ、参加した患者会で自宅からほど近い病院に乳房再建に定評のある医師がおられると聞きました。私が乳がんになったころは再建に関する情報も少なく、地元が無理なら東京まで行く覚悟でいましたのでこの知らせは本当に嬉しく、早速主治医に紹介状を書いてもらってお訪ねしたのが、美濃加茂市にある木沢記念病院の高木先生でした。
3年待ったおかげで、高木先生の地元へのご着任があり、しかもこの間に乳がん治療や乳房再建をとりまく技術や制度が大きく前進したのですから、思えば私は何とラッキーだったことか。病気になるのは辛いことですが、良いほうに考えれば私は最高のタイミングで再建手術を受けることができたばかりか、長年取りたくてしかたなかったお腹の脂肪を乳房再建のドナーに変えられたのですから、こんなに嬉しいことはありません。
しかも病気になったことで、いままで知り合えなかった大勢の友達ができ、患者会を通じて知ったピアサポーター(※注)の資格を取ることで、自分の体験を多くの患者さんたちにお伝えする機会を持つことができました。乳がんを経て自らを省みる機会が増え、自分の世界が大きく広がったことで人生を楽しむことにも貪欲になりました。色々な面でいま本当に幸せに過ごさせてもらっています。
年齢は関係ありません。人生を楽しむためにもチャレンジすべき
乳房再建手術を受けるかどうかで迷っている人には、挑戦してみる値打ちは必ずあるとお話しします。手術を受けられる環境にいるなら、何歳であろうと関係ありません。人生を楽しめる時間が長くなった現在、高齢女性が友達と温泉旅行に行くような機会ももっと増えるでしょう。そんなとき、マイナスの事情があるからと躊躇していたのでは何も楽しめません。有り難いことに、いまの医療技術はそうしたことを可能にしてくれているのです。
インプラントに比べて、自家組織による再建はメンテナンスの必要がないといわれますが、加齢に伴って左右のバランスがある程度崩れてくることは避けられません。主治医の高木先生は、もっと年齢が進んだら脂肪を抜いて減らすことも可能だし、健側の下垂が目立つようならそちらを吊り上げる手術もできるとおっしゃってくださっており、私も遠からずチャレンジするつもりです。数年のうちには、いまよりもっと革新的な手術方法が確立されているかもしれませんしね! そんなことを考えると、もういまから楽しみでなりません。
*インタビュー記事は個人の体験談に基づく感想で、E-BeCで推奨するものではありません。体験談は再建を考える際の参考にしていただき、主治医や医療者とよく相談をして決めるようにしてください。
(取材2016年11月)
※注【ピアサポート】 同じような体験をもつ者が助け合う活動のこと。乳がんでも、全国で各地で多くの経験者がピアサポーターとなって患者さんや家族の不安・悩みを聞き、気持や思いを共有しあっています。