死を覚悟したことで、蓋をしてきたホンネに気づき、「このまま死んだら絶対に後悔する」と思いました
*2024年10月発行 写真集『New Born -乳房再建の女神たち-』(撮影:蜷川実花、企画:NPO法人E-BeC、発行:赤々舎)に収録しているモデルの経験談「わたしのストーリー」より
神奈川県 H.Mさん(50歳)
手術方式:一次二期再建(培養脂肪幹細胞付加脂肪)
・乳がん手術
2019年6月 左乳頭温存乳房全切除術+エキスパンダー
執刀:順天堂大学医学部付属順天堂医院 乳腺外科 飯島耕太郎先生
エキスパンダー挿入:順天堂大学医学部付属順天堂医院 形成外科 武石明精先生(客員教授)
・再建手術 : 2020年 9月1回目、2021年2月 2回目(左)
再建方法 : 培養脂肪幹細胞付加脂肪による脂肪注入再建/ドナー:太もも お腹
執刀:LaLaブレスト・リコンストラクション・クリニック横浜 武藤真由先生
・乳がん治療
術前治療:なし
術後治療:なし
母は5年近く闘病の末、私が30歳になる前に乳がんで亡くなっているんです。だから毎年乳がん検診を受けていて、46歳の検診で私にも乳がんが見つかった時は、めちゃめちゃ怖かったです。
がんが散らばっているから全摘と言われたときも、「おっぱいがなくなるってどういうこと?」 と、怖くて想像できませんでした。
手術まで1か月余りで乳房再建のことまで深く考える余裕もなく、医師に提案されるまま、お腹の組織を使った再建をすることにしました。
そんな私の人生を激変させる出来事は、その後に起こりました。乳房を切除しエキスパンダーを入れる手術を受け、退院したその日に乳房内で大量出血してしまったんです。胸とその周囲がメリメリと腫れあがり、緊急入院しました。あのとき初めて、人って簡単に死ぬんだと思いました。その翌朝、目覚めた私に天から降って来た言葉は「私、オンナとして満たされてなーい!」でした。
出産してからは、自分は二の次で、すべての時間とお金を2人の子どもに注ぐ、いいお母さんに徹していました。そのことに後悔はないし、それなりに幸せだと思っていましたが、死を覚悟したことで、蓋をしてきたホンネに気づき、「このまま死んだら絶対に後悔する」と思いました。
夫とのセックスレスに悩んでいたうえに、おっぱいをとって自己肯定感も急降下。この先、人前で服を脱ぐことも恋愛することもないんだと思うと、絶望的な気持ちになって。無意識に避けてきたホンネのホンネを、勇気を振り絞って夫にぶつけました。
それから1年余りたち、再建手術の1週間前に医師のやむを得ぬ事情で手術が白紙に戻ってしまったんです。いつまでもエキスパンダーを入れてはおけず、色々調べると、保険適用ではないけれど、脂肪注入の再建法なら皮膚を大きく切らずに柔らかい胸ができると知り、高額ですが自費で受け、次のステップに進もうと決めました。
私の場合は、太ももの脂肪から幹細胞を分離して培養し、お腹からとった脂肪と混ぜて胸に細かく注入。これを半年空けて2回注入しました。胸よりも脂肪をとった部位が1週間くらい腫れて痛かったけれど、できあがったおっぱいはふっくらで、脂肪注入を選んでよかったと思いました。
2回目の注入のあと、離婚が成立。その後も「自分がどうしたいか」に正直に、さまざまな人生経験を積みました。そんな私が伝えたいのは、おっぱいや子宮をとると、性生活に支障がでたり、自信を無くすこともあるけれど、本当はおっぱいや子宮があってもなくても、どんな女性もステキで、人生を楽しめるということ。再建をして思ったのは、乳房がないとダメと決めつけるのではなく、自分がどうしたいかを考え、自由に選べばいいということ。私は今自由で、人生で一番幸せと断言できるから。それを気づかせてくれたのは間違いなく乳がんだったんです。
2024年5月 インタビュー:山崎多賀子
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